OPアンプ増幅回路の2つのゲイン
安定動作に欠かせないシグナル・ゲインとノイズ・ゲイン
- 著者・講師:藤森 弘己/Hiromi Fujimori(アナログ・デバイセズ株式会社)
- 企画編集・主催:ZEPエンジニアリング株式会社
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発振検討には「ノイズ」に対するゲイン設計が重要
OPアンプを使用する大きな目的の1つは,信号の増幅です.その基本的な回路として反転アンプや非反転アンプ,あるいはその応用である差電圧アンプがあります.
信号に対する増幅率「シグナル・ゲイン($G_{signal}$)」だけを考えて帰還回路を設計する場合が多いですが,「ノイズ・ゲイン($G_{noise}$)」も合わせて考慮するべきです.ノイズとは,OPアンプ自体のドリフトする直流誤差電圧「オフセット」や,直流電位調節のために加えるDCシフト(直流)などです.
ノイズ・ゲインは必ず発生します.シグナル・ゲインの設計ももちろん重要ですが,回路の安定性は,ノイズ・ゲインの周波数特性からわかりますから,無視してはいけません.ここではノイズ・ゲインという言葉を使っていますが,これは実態を十分に反映したものではありません.
ノイズ・ゲインの意味
図1の反転アンプのシグナル・ゲインは$-R_F/R_S$です.同時に,この回路には,$1+R_F/R_S$というゲイン(ノイズ・ゲイン)も生成されます.
入力信号は,シグナル・ゲイン倍されて出力されますが,OPアンプ自体のオフセット誤差($V_{offset}$)や入力換算電圧ノイズは,ノイズ・ゲイン倍されて出力されます.レベル・シフト電圧(図1の$V_{shift}$)も,シグナル・ゲイン倍ではなくノイズ・ゲイン倍されて出力されます.
信号は反転増幅,ノイズは非反転増幅
図1は反転アンプなのに,なぜ入力オフセットやDCシフト,入力ノイズは非反転アンプのゲインで増幅されるのでしょうか?
OPアンプの入力オフセットは,反転入力($-$)から非反転入力($+$)を見たときの電圧としてモデル化して定義されます.これはレベル・シフト信号や入力ノイズも同じです.これらの入力電圧は,図2と図3のように非反転増幅されます.
図2と図3は,反転端子が信号入力ですが,それを電圧源として,グラウンド・ショートで表しています.そのときのオフセットやDCシフト電圧(直流)は,非反転側に入力され,非反転増幅率($1+ R_F/R_S$)倍されて出力されます.
逆に,オフセット電圧やDCシフト,ノイズを0Vとして回路を見ると,信号が($-R_F/R_S$)倍されて出力されます.
信号出力とノイズ出力の2つを重ねの理を利用して合成すると,例えば,オフセット($V_{offset}$)と入力信号($V_{in}$)は,次のように出力信号($V_{out}$)に反映されます.
\begin{align} V_{out}=G_{signal} V_{in}+G_{noise} V_{offset} \end{align}これは,オフセットなどのノイズ($V_{noise}$)やDCシフト($V_{shift}$)の場合も同じです.次の式になることは重ねの理で説明できます.
\begin{align} V_{out}=G_{signal} V_{in}+G_{noise} (V_{offset}+V_{shift}+V_{noise}) \end{align}反転アンプ/非反転アンプ/DCシフト付きアンプの場合
OPアンプ回路にはシグナル・ゲインとノイズ・ゲインがあることを,反転アンプを例にして説明してきましたが,反転アンプ以外はどうなのでしょうか.
図4は非反転アンプ,図5は反転アンプ,図6は DCシフト付きアンプの$G_{signal}$と$G_{noise}$を示したものです.
図6は,$R_1$,$R_2$,$R_3$,$R_4$を同じ値にすると,出力電圧が次のように簡単に求まります.
\begin{align} V_{out}=V_{ref}-V_{in} \end{align}これは2つの入力の差電圧を検出するアンプで,差電圧アンプと呼ばれています.図5の非反転アンプの場合は,シグナル・ゲインとノイズ・ゲインは同じ値です.
ノイズ・ゲインの周波数特性にピークがあるなら発振対策
図7に示すのは,ノイズ・ゲインの周波数特性が重要になる電流出力センサ用のアンプ「電流-電圧変換アンプ」です.
センサ(ここでは,ダイオード)のジャンクション容量($C_S$)とシャント抵抗($R_S$)が電流源とともにアンプ回路の入力に接続されます.アンプにも入力の容量$C_{in}$があります.このアンプは,入力電流($I_D$)を電圧($-I_D R_F$)に変換して出力します.
図8の電流-電圧変換アンプのシグナル・ゲインとノイズ・ゲインをボード線図上にプロットすると,図9のようになります.容量の影響で,ノイズ・ゲインが高域で盛り上がり,周波数特性に不要なピークを生じさせています.図10のように矩形波出力が大きく暴れて,発振一歩手前です.プロットのオーバーシュートやアンダーシュートが大きくなると,波形が整定しなくなって発振します.
図11のように,$R_F$と並列にキャパシタ$C_F$を挿入し,高域でのノイズ・ゲインを抑えます.それぞれのポイントは,図7の計算式で求められます.どのポイントで補償するかの選択は自由です.ここでは無難なシグナル・ゲインとノイズ・ゲインの半分の位置にしています.図12と図13のように,出力の不安定性が抑えられて正確に測定できます.
以上のように,シグナル・ゲインとノイズ・ゲインは相互に関連しながら,出力の安定性や誤差に影響を与えます.
電流-電圧変換アンプのパフォーマンスを引き出すプリント基板と実装
OPアンプを使った電流-電圧変換アンプ($I-V$コンバータ)の基板・実装では,リーク電流やカップリング・ノイズの影響を受けにくい仕上げが重要です.
入力電流のレンジやOPアンプの入力バイアス電流の大きさにもよりますが,扱う信号が1nA以下の電流を云々ということであれば,高インピーダンス回路,低電流回路を扱うための知識が必要です.原則,高インピーダンスを保てる材質による実装と,リークを最小限に抑えるプリント・パターンと回路の設計が肝要です.
基板は表面の汚れのないクリーンな状態で高インピーダンスを保ち,数fA~100pAレベルを安定して測定するには,基板の材質も考察します.高インピーダンス,低リークのテフロン基板やRF回路用のロジャース基板も低リーク回路で高い性能を発揮します.
抵抗や位相補償に使用するコンデンサも絶縁性が高く,リーク電流の小さいものを選びます.入力の信号線は一番敏感なラインなので,配線レイアウトに細心の注意を払います.入力ピンの周囲をガード・リングやドライブ・シールドを保護したり,$I-V$コンバータの回路部分をシールド・ケースに入れたりしてください.〈藤森 弘己〉