LTspice設計データで学ぶ Analog Devices電子回路教室


キー・デバイス“OPアンプ”のパフォーマンスを100$\%$引き出す


連載目次(全4回)

   第1回 OPアンプの周波数特性と適切な選び方
   第2回 高精度増幅を実現するOPアンプの選び方
   第3回 低電圧/単電源動作のための適切なOPアンプ選定
   第4回 安定に動作する負帰還アンプの検証と構築

第1回 OPアンプの周波数特性と適切な選び方

  1. はじめに
  2. OPアンプの周波数特性
  3. ADA4510-2にフィードバックをかけて目的の動作ゲインを設定すると
  4. ゲイン帯域幅積で動作ゲインにおける動作帯域幅を見積もれる
  5. ゲイン帯域幅積で動作帯域幅を見積もるにはノイズ・ゲインというものを活用する
  6. 周波数特性を制限する別の要素「スルー・レート
  7. 周波数特性はいつでもなだらかに低下するとはいえない

1.はじめに

アナログ電子回路を作るうえでの主役である「OPアンプ」は,使用目的となる最高動作周波数まで対応するOPアンプを選定する必要があります.それが満足できていなければ,アナログ電子回路として性能を発揮できませんし,場合によっては「正しく動作しない」不都合が生じることもあります.

本稿では,OPアンプ自体の周波数特性の考え方と,それを目的の回路に応用するときに,実現できる周波数特性をどのように見積もっていくかについて説明します.

2.OPアンプの周波数特性

OPアンプはそれぞれの製品種別ごとでゲイン対周波数特性をもっています.図1アナログ・デバイセズの高精度OPアンプである,ADA4510-2のゲイン対周波数特性のグラフを示します.

図1 ADA4510-2のオープン・ループ・ゲインの周波数特性(データシートからの抜粋.青がゲイン)

OPアンプはフィードバックをかけて,抵抗の比率により目的のゲインを設定しますが,ここでは図2のように,フィードバックをかけない状態でのOPアンプ単独の入出力間のゲイン($V_{OUT}/V_{IN}$)を示しています.

図2 オープン・ループ・ゲインはフィードバックをかけない状態での入出力間のゲインを表す

フィードバックをかけないということを「回路のループ(フィードバック)をオープン(開放)にする」と表現し,その条件によるゲインを表すということで,「オープン・ループ・ゲイン」と呼ばれます.

図1の数値は[dB](デシ・ベル)で表されており,以下の常用対数での表現です.

\begin{align*} \mathrm{dB} = 20 \times \log_{10}\left( \dfrac{V_{{OUT}}}{V_{{IN}}} \right) \end{align*}

0dBは1倍を表し,20dBが10倍,40dBが100倍,140dBは10,000,000倍に相当します(マイナスなら$-$20dB $=$ 1/10,$-$40dB $=$ 1/100などとなる).図1を見ると,非常に低い周波数(1Hz以下)においては,140dBを超える非常に高いゲインとなっており,それが1Hz程度からゲイン特性が低下を始めていることがわかります.周波数の低下は周波数が10倍になるにしたがい,1/10倍つまり$-$20dBずつ低下していきます.

また,ゲインが0dBになる周波数をクロスオーバ周波数$f_T$と呼び,ADA4510-2では10MHzになっています.このクロスオーバ周波数が以降に示すように,重要な概念になります.

「こんな周波数特性で大丈夫か?」とも思いますが,このような周波数特性になっているのは,OPアンプがユーザ回路で安定に動作できるようにするための設定なのです.このゲイン対周波数特性が目的の回路での仕様を満足できるようにOPアンプを選定していく必要があります.

3.ADA4510-2にフィードバックをかけて目的の動作ゲインを設定すると

このADA4510-2にフィードバックをかけてみます. 図3は目的の動作ゲインを2倍,10倍,100倍,1,000倍,10,000倍(6dB,20dB,40dB,60dB,80dB)としたLTspiceでのシミュレーション回路(.stepというコマンドを使用している)です,

図3 ゲインを2倍,10倍,100倍,1,000倍,10,000倍としたLTspiceのシミュレーション回路

図4はその結果です.併せてADA4510-2のオープン・ループ・ゲインもシミュレーションしてあります.動作ゲインを上昇させるとゲインが低下を始める周波数特性が低くなってくることがわかります.これは単純な話しで,目的の動作ゲインはOPアンプ自体のオープン・ループ・ゲインを超えられないということです.

図4 図3のシミュレーション結果.緑:2倍,青:10倍,赤:100倍,シアン:1,000倍,マゼンダ:10,000倍,灰:オープン・ループ・ゲイン

それぞれの動作ゲインにおいて,ゲイン特性が$-$3dB($1/\sqrt{2}$)に低下する周波数を確認してみると,表1のようになっています.動作ゲインと$-$3dB周波数を掛けたものは,6dB程度では少し大きく(高く)なっているものの,どの動作ゲイン設定でもほぼ同一になっていることがわかります.これをゲインと動作帯域幅を掛けた数値として,「ゲイン帯域幅積」と呼びます.英語ではGain Bandwidth Productといい,$GBP$とか$GBW$と略されます.

動作ゲイン(dB) 動作ゲイン(真値)① $-$3dB 周波数② ①×②
6dB 2倍 7.76MHz 15.5MHz
20dB 10倍 1.41MHz 14.1MHz
40dB 100倍 104kHz 10.4MHz
60dB 1,000倍 10.2kHz 10.2MHz
80dB 10,000倍 1.02kHz 10.2MHz
表1 それぞれの動作ゲインにおいて,ゲイン特性が-3dB(1/$\sqrt{2}$に低下する周波数)

この周波数は,データシートにも以下の図5のように記載されており,掛け算で計算した数値ともほぼ同じになっていることがわかります. さらにこの周波数は,図1に示したADA4510-2のゲイン対周波数特性でのクロスオーバ周波数,約10MHzと同じ数値になっています.

図5 ゲイン帯域幅積は、データシートにも記載されている(データシートからの抜粋)

4.ゲイン帯域幅積で動作ゲインにおける動作帯域幅を見積もれる

このように目的とする動作ゲイン$G_V$で実現できる,採用したOPアンプの動作周波数特性$f_{-3\rm{dB}}$は,ゲイン帯域幅積$GBP$(クロスオーバ周波数$f_T$)から,

\begin{align*} f_{-3 \rm{dB}} = \dfrac{GBP}{G_V} = \dfrac{f_T}{G_V} \end{align*}

と見積もることができます.

なお,ゲインが0dBのボルテージ・フォロアだと少し周波数特性が伸びますが,その数値も製品によっては,データシートに$-$3dB帯域($-$3dB Bandwidth)として記載されています.ADA4510-2では,図5のように13.5MHzになっています.それでも$GBP$に近い数値であり,$GBP$でおおよそ動作帯域幅を見積もることができます.

このように目的とする最大動作周波数と動作ゲインから,$GBP$を計算し,それに合致するOPアンプを選定することが基本です.

なおこのゲイン帯域幅積のしくみは,10倍の周波数変化でゲインが1/10($-$20dB)になる関係として,またそのカーブがクロスオーバ周波数$f_T$まで同じ傾きであるという条件として成立します.低周波で利用される汎用OPアンプや高精度OPアンプはこの関係の特性をもっていますので,上記の式で動作周波数特性を正しく見積もることができます.

しかし高周波で使用される高速OPアンプでは,高域になると10倍の周波数変化でゲインが1/10倍($-20$dB)の関係が崩れ,よりゲイン変化が大きくなるものがあります.それらでは上記の式で動作周波数特性を正しく見積もることができないので注意してください.このような場合はLTspiceでシミュレーション回路を組み,周波数特性を確認することがよいでしょう.

また目的とする動作ゲインと動作周波数特性に対して$GBP$が不足している場合は,多くの汎用OPアンプでは1パッケージに2個アンプが構成されているものも多いため,2段増幅構成として,ゲインを半分ずつ分担して増幅することで周波数特性を改善するという方法もあります.

5.ゲイン帯域幅積で動作帯域幅を見積もるにはノイズ・ゲインというものを活用する

図6のような加算回路の周波数特性をシミュレーションしてみましょう.

この回路は反転増幅回路を基本とした加算回路です.各経路は信号源側($R_{Gx}$)が1k$\Omega$,フィードバック側($R_F$)が10k$\Omega$になっているので,それぞれの経路のゲインは10倍になっています.そうするとゲインが10倍ですから,ADA4510-2の$GBP$ = 10.4MHzから,$-$3dB動作周波数特性が1MHz程度と見積もられるはずです.

またこの図6では,ゲインが$-10$倍の反転増幅回路と,10倍の非反転増幅回路もシミュレーション回路として用意しました.ここまでの説明では,これらの回路の周波数特性はすべて「ぴったり」同じになるはず,と思われるのではないでしょうか.

図6 4加算回路(ゲイン10倍)とゲインが10倍の反転増幅回路と非反転増幅回路.周波数特性は同じになるはずだが…

シミュレーション結果を図7に示します.「ぴったり」同じ周波数特性になっていません.$-10$倍の反転増幅回路と,10倍の非反転増幅回路も少しですが特性が異なっています. この理由はゲイン帯域幅積で動作帯域幅を見積もるには,動作ゲインで考えるのではなく,これから示すノイズ・ゲインというもので考える必要があるからです.

ノイズ・ゲインというものは,回路の信号源の大きさをゼロとして,非反転入力端子に仮の電圧源があると考え,その電圧源から出力へのゲインを考えるというものです.

もともとノイズ・ゲインはOPアンプの電圧性ノイズの影響度を計算するもので,非反転入力に電圧性ノイズのすべてが仮に存在するものとしてモデル化し,それが出力に何倍のゲインとして現れるかを計算できる数字です.ここで説明する周波数特性や,入力オフセット電圧,バイアス電流の影響が出力にどのように現れるかも計算できる数字です.

図7 図6のシミュレーション結果.緑:加算回路,青:反転増幅回路,赤:非反転増幅回路

このノイズ・ゲインの定義から,それぞれの回路のノイズ・ゲイン$G_N$を計算してみると,加算回路は1k$\Omega$の4つの抵抗が並列に接続されていますので,

\begin{align*} G_N = 1 + \dfrac{10\text{k}\Omega}{1\text{k}\Omega/4} = 41 \end{align*}

反転回路は,

\begin{align*} G_N = 1 + \dfrac{10 \text{k} \Omega}{1 \text{k} \Omega} = 11 \end{align*}

非反転回路は,回路自体の信号ゲインそのもので,

\begin{align*} G_N = 1 + \dfrac{9\text{k}\Omega}{1\text{k}\Omega} = 10 \end{align*}

になります.それぞれ同じ信号ゲインなのですが,ノイズ・ゲインは異なった値になっています. これが図7の周波数特性の違いであり,非反転増幅回路の周波数特性と比較して,加算回路の周波数特性は1/4程度になっていることがわかります.

なお,加算回路で4つの信号源側抵抗は同じ抵抗値のものを使用しましたが,それぞれの抵抗値が異なっていても,つまり違う比率で加算する場合でも,それぞれの信号源から出力にかけての周波数特性はどの経路も同じになります.これは加算回路としての条件としては都合のよいものともいえるでしょう.

6.周波数特性を制限する別の要素「スルー・レート」

ここまでゲイン帯域幅によって周波数特性が決定すると説明しました.しかしこれ以外に「スルー・レート」と呼ばれる,出力の最大電圧変化速度というものによっても,周波数特性が制限されてしまいます.スルー・レートの値もデータシートで必ず規定されており,図5においても“Slew Rate”という項目を見ることができます.

図8 ADA4510-2を100kHz,10V$_{\text{Peak}}$(20V$_{\text{P-P}}$)で動作させたケース(ボルテージ・フォロア)

スルー・レートによる制限は,信号周波数が中庸でも振幅が大きいときに起きやすいものです.図8ADA4510-2を100kHzで,出力を10V$_{\text{Peak}}$(20V$_{\text{P-P}}$)で振幅させたケースです(ボルテージ・フォロア).なお電源電圧は$\pm \rm$15Vに変更しています.当然のごとく正弦波が出力されています.

続いて,図9は周波数を500kHzにして,同じく10V$_{\text{Peak}}$(20V$_{\text{P-P}}$)で出力を振幅させたケースです(ほかの条件は図8と同じ).ここでは波形が三角波になっています.

図9 図8と同じ条件で500kHzで出力振幅させたケース

ゲイン帯域幅から考えると,ボルテージ・フォロア動作なので当然正しく動作するはずです.ましてや振幅が単純に低下するのではなく,波形が三角波になっています.これがさきに説明した出力大振幅状態でのスルー・レートによる制限です.

スルー・レートは出力が変化できる最大の変化速度で,ADA4510-2では19V/$\mu$sと規定されています.周波数500kHzで10V$_{\text{Peak}}$の場合はこの制限に引っ掛かってしまっているのです.波形の傾斜を見ても,1$\mu s$の時間で振幅変化が18.6Vとなっており,スルー・レート19V/$\mu$sというスペックに合致していることがわかります.

スルー・レートの制限を受けることなく,目的としたピーク電圧$V_{\text{Peak}}$をひずみなく出力できる周波数を「フルパワー帯域幅(Full Power Bandwidth;$FPBW$)」と呼び,以下で計算できます.

\begin{align*} FPBW = \dfrac{SR}{2 \pi V_{\text{Peak}}} \end{align*}

ここで$SR$はスルー・レートです.

ADA4510-2の19V/$\mu$sにおいて,$V_{\text{Peak}}$ = 10Vでは300kHzになります.さきの500kHzはこれを超えていたわけです.500kHzにおいても$V_{\text{Peak}}$ = 6V$_{\text{Peak}}$以下であればスルー・レートの制限を受けなくなります(図10).

図10 図9と同じ条件(500kHz)で出力振幅を6V$_{\text{Peak}}$に低減させたケース.三角波から正弦波に戻っている

このように目的とする最大動作周波数と出力最大振幅から,必要なスルー・レートを計算し,それに合致するOPアンプを選定することが$GBP$の検討と合わせて必要です.

ゲイン帯域幅で決まる周波数特性を,より厳密には「小信号周波数特性」と呼びます.データシートに記述されている場合とされていない場合がありますが,「小信号周波数特性」に合わせて,「大信号周波数特性」というスペックが記載されていることがあります.こちらはスルー・レートにより制限されたケースでの,大振幅での周波数特性であり,「ピーク電圧$V_{\text{Peak}}$は何V」と規定されたうえで,その数値が記載されています.

7.周波数特性はいつでもなだらかに低下するとはいえない

図4などでは,周波数特性は周波数の上昇とともになだらかに低下しています.本来の動作としては,このような「なだらかな低下」があるべきかたちといえます.

しかし,そうならないケース,つまり高い周波数でピークが生じるケースもあります.以降の記事(第4回)で別途,くわしく解説したいと思いますが,これはOPアンプが不安定(最悪,異常発振する)な状態に近づいているときの振る舞いです.

以下の図10は,ADA4510-2を使ったゲイン2倍の非反転増幅回路です.ここでは同じ非反転増幅のゲインのままで,抵抗値を1k$\Omega$,10k$\Omega$,100k$\Omega$と3条件変えてシミュレーションをしています.

図11 ADA4510-2を使ったゲイン2倍の非反転増幅回路の抵抗値を変えてみる

このシミュレーション結果を図11に示します.抵抗値が1k$\Omega$のときはゲインはなだらかに低下していますが,10k$\Omega$,100k$\Omega$と増加させていくと,なだらかに低下していくべくところにピークが見えます.100k$\Omega$では20dB以上のピークが観測されています.これが不安定な状態に近づいている状態です.ここに注意しなくてはなりません.これは抵抗とADA4510-2入力端子の入力容量とで生じる$RC$位相遅れが原因です.

図12 図10のシミュレーション結果.緑:1k$\Omega$,青:10k$\Omega$,赤:100k$\Omega$

汎用と呼ばれる基本的なOPアンプではあまりこのような挙動を見ることはありませんが,選定した抵抗値が正しいか,回路自体が正しいかどうかをLTspiceでシミュレーションしながら確認してくことが必須です.また出力に容量が接続された場合は,このような状態が顕著に現れますので要注意です.

そしてシミュレーションだけに頼るのではなく,最後はかならず実機で確認することが必要です.シミュレーション・モデルはIC内部のトランジスタがすべて記述されたモデルではなく,簡易モデルになっています.そのためOPアンプの挙動をすべて正しく模倣するものではありません.この辺の差異をかならず実機で検証すべきです.この不安定性については,第4回で説明します.

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OPアンプの基本的な使い方から高精度な計測回路の設計法まで,実際の回路例とともに学べる内容です.LTspiceによるシミュレーションと実測の比較もあり,理解が深まる内容です.アナログ回路を本気で学びたい方におすすめです.

 第1回 OPアンプの中身
  第2回 OPアンプの基本回路
  第3回 OPアンプの基本的な各種特性
  第4回 オーディオ用回路
  第5回 高精度計測回路
  第6回 OPアンプで作る発振回路
  第7回 電流電圧変換回路
  第8回 OPアンプの安定性の確認と改善方法