ラズパイで入門!自作RISC-VのC/C++開発環境


エディタからビルド/デバッグまで

C/C++のソースコード編集から実行ファイルができるまで

図1 RISC-Vはオープンソースで開発された無料で自由に利用できる指令セット・アーキテクチャ.RISC-Vの基本,開発環境のセットアップ,ラズベリー・パイやUbuntuを利用した入門方法について解説する.[著・提供]圓山 宗智.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は[VOD/KIT] 実習キットで一緒に作る!オープンソースCPU RISC-V入門

RISC-V入門と開発環境構築

RISC-Vはオープンソースで開発された指令セット・アーキテクチャ(ISA)で,近年注目を集めています.従来の商用ISA(例: x86, ARM)とは異なり,RISC-Vは自由に利用できるため,大学や企業の研究開発において急速に普及しています.この記事では,RISC-Vの基本,開発環境のセットアップ,ラズベリー・パイやUbuntuを利用した入門方法について解説します.

RISC-Vとは?

RISC-Vは,単純な設計を特徴とするRISC(Reduced Instruction Set C_omputer)アーキテクチャの一種であり,そのオープン性が最大の特徴です.商用プロセッサはライセンス料がかかりますが,RISC-Vは無料で利用可能で,カスタマイズも許されています.この柔軟性が,自作のCPU開発やカスタマイズされた組み込みシステムに最適な選択肢となっています.

ラズベリー・パイでのRISC-V開発

ラズベリー・パイは,手軽に利用できる低価格なコンピュータであり,RISC-Vの開発環境を構築するのに適しています.まず,ラズベリー・パイにラズベリー・パイ OSをインストールし,次の手順でRISC-Vの開発環境をセットアップします.

  1. 準備作業
  2. ラズパイOSのSDカードを本体に挿入し,モニタ,キーボード,マウスを接続して起動します.ターミナルを開き,SSHやWi-Fiの設定を完了させます.
  3. GNU Toolchainのインストール
  4. RISC-Vのコンパイラやデバッガを含むGNU Toolchainを以下のコマンドでインストールします.
    
       $ git clone https://github.com/riscv-collab/riscv-gnu-toolchain
    
       $ ./configure prefix=/opt/riscv enable-multilib
    
       $ sudo make
    
    
    
    
  5. Eclipse IDEのセットアップ
  6. 統合開発環境(IDE)として,Eclipse IDE for Embedded C/C++を使用します.次のコマンドでダウンロードし,インストールします.
    
       $ tar -xvzf eclipse-embedcpp-2022-06-R-linux-gtk-aarch64.tar.gz
    
       $ sudo ./eclipse/eclipse &
    
    
    
    

これにより,ラズベリー・パイでRISC-V向けのC/C++開発環境が整います.

C/C++開発とデバッグ

RISC-VのC/C++開発環境では,`riscv64-unknown-elf-gcc`コンパイラを使用してコードをコンパイルします.また,`riscv64-unknown-elf-gdb`デバッガを使用して,ソース・コード・レベルでのデバッグが可能です.特にRISC-Vの命令セットはシンプルであるため,最適化されたバイナリが生成されやすく,性能面でも高い効率を実現します.

RISC-V開発における重要なキーワードの解説

RISC-V開発において,特に重要なキーワードをいくつか解説します.これらの概念を理解することは,効率的な開発を進めるために欠かせません.

GNU Toolchainとは?

GNU Toolchainは,RISC-Vの開発に不可欠なツールセットで,主にコンパイラ(`riscv64-unknown-elf-gcc`),アセンブラ(`riscv64-unknown-elf-as`),リンカ(`riscv64-unknown-elf-ld`)の3つの要素で構成されています.これにより,CやC++で書かれたプログラムをRISC-V命令セットに変換し,最終的にバイナリとして実行可能な形式にします.

Eclipse IDEの役割

Eclipseは,統合開発環境(IDE)として広く利用されているツールです.RISC-Vの開発においても,コードの編集,コンパイル,デバッグまで一貫して行える環境を提供します.特に,`riscv64-unknown-elf-gdb`デバッガと連携することで,ソース・レベルでの詳細なデバッグが可能です.

RISC-VとJTAGデバッグ

JTAGは,RISC-Vデバイス上でのデバッグに使用されるインターフェースで,物理的な接続を通じてCPUやメモリに直接アクセスできます.RISC-V開発においては,JTAG I/Fを通じてデバッガ(`openocd`)がターゲットデバイスにアクセスし,ソースコードの実行を停止したり,変数の値を確認したりすることが可能です.

コンパイルとリンクのプロセス

RISC-V開発では,まずソースコードをコンパイルしてオブジェクト・ファイルを生成し,次にリンク処理を行ってバイナリを生成します.例えば,次のようなコマンドでコンパイルが行われます.


$ riscv64-unknown-elf-gcc -o project.elf main.c -T link.ld



ここで,`link.ld`はリンクスクリプトであり,プログラムのメモリ配置などを制御します.コンパイル後,デバッガを使用して実行ファイルをロードし,JTAGを通じてデバッガに接続できます.

以上のように,RISC-Vの開発はさまざまなツールとプロセスを組み合わせて行われますが,それぞれの役割を理解することで効率的にシステムを構築することが可能です.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 出身地:京都市左京区
  • 仕事:1986年,日立製作所に入社し,SHマイコンの開発に従事.以降,ルネサステクノロジ,ベンチャー企業,大手半導体メーカにて,画像処理用SoCや各種マイコンおよび関連半導体デバイスの開発を統括.現在もマイコン製品設計に取り組んでいる.
  • 趣味:1978年からマイコン・FPGA・GPUと戯れ
  • 執筆活動:2000年からマイコンを絡めた雑誌記事と書籍を執筆

著書

  1. [VOD/KIT]実習キットで一緒に作る!オープンソースCPU RISC-V入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. ARMベース・システムLSI開発の事例研究,Design Wave Magazine 2006年5月号,CQ出版社.
  3. ARM汎用プロセッサで使える汎用JTAGデバッガを自作する,Design Wave Magazine 2008年6月号,CQ出版社.
  4. 並列処理プロセッサxCORE徹底研究,インターフェース 2014年11月号~2015年6月号(連載),CQ出版社.
  5. Cで直叩き!超並列コンピュータGPU全速力,トランジスタ技術 2019年9月号(特集),CQ出版社.ほか
  6. 今すぐ使えるH8マイコン基板 初版2010年,増補版2011年,CQ出版社.
  7. 2枚入り小型ARMマイコン基板 2011年,CQ出版社.
  8. ARM PSoCで作るMyスペシャル・マイコン 基板付き 2013年,CQ出版社.
  9. ARM PSoCで作るMyスペシャル・マイコン 開発編  2013年,CQ出版社.
  10. SHマイコン活用記事全集 2014年,CQ出版社.
  11. FPGA電子工作スーパキット 2016年,CQ出版社.
  12. MAX10実験キットで学ぶFPGA&コンピュータ 2016年,CQ出版社.
  13. 完全版FPGA電子工作オールインワン・キット 2016年,CQ出版社.

参考文献

  1. Lチカ入門!ソフトウェア屋のためのHDL事はじめ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. Zynqで作るカスタム・コンピュータ・チップ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]一緒に動かそう!Lチカから始めるFPGA開発【基礎編&実践編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/KIT]Xilinx製FPGAで始めるHDL回路設計入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/KIT]Zynqで初めてのFPGA×Linux I/O搭載カスタムSoC製作,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [VOD]カメラ×ラズパイで一緒に!初めての画像処理プログラミング
  7. [VOD/KIT] 実習キットで一緒に作る!オープンソースCPU RISC-V入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  8. [VOD/KIT]ARM Cortex-A9&FPGA内蔵SoC Zynqで初体験!オリジナル・プロセッサ開発入門,ZEPエンジニアリング株式会社.