Zynq FPGA入門 独自のコンピュータ・チップ


自作のIPコアとメモリ/CPUをオンチップ・バス“AXI”で接続

カスタム・コンピュータ・チップを作るには

図1 Zynqでは,自作のIPコアとXilinx標準のIPコアを使える.IPコアは,ARM社のデータ通信用オンチップ・バス“AXI”を使ってメモリやCPUとつなぐ.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]森岡 澄夫
詳細【Cora Z7-07S Zynq-7000開発ボード付き】 Zynqで初めてのFPGA×Linux I/O搭載カスタムSoC製作

Zynq FPGAは,FPGAとプロセッサを一体化したSoC(System-on-Chip)であり,柔軟性と高性能を兼ね備えています.

プロセッサとメモリの役割

Zynq SoCのプロセッサ部分(PS,Processing System)は,通常のコンピュータと同様に主要な計算処理を行います.

Zynq-7000シリーズでは,Arm Cortex-A9コアが搭載されており,これにより複雑なソフトウェア・ロジックを構成できます.

メモリはプログラムやデータの一時的な保存に使用され,DDRメモリなどの外部メモリをサポートします.このような構成により,柔軟なプログラミング環境が実現されています.

メモリの配置や選択は,システム性能に大きな影響を与えます.高速なDDR4メモリを使用することで,大規模データの処理が可能になります.Zynq SoCのメモリ管理ユニット(MMU)を適切に設定することで,効率的なメモリ・アクセスが実現されます.

オンチップ・バスとその重要性

オンチップ・バスは,プロセッサ,メモリ,IPコアなどのコンポーネント間のデータ通信を司る重要な部分です.Zynqでは,ARM社が提供するAXI(Advanced eXtensible Interface)が標準的に使用されています.AXIバスは,高いデータ転送性能と柔軟性を兼ね備えており,異なるクロック・ドメイン間の通信を容易にします.

オンチップ・バスの設計では,通信の帯域やレイテンシを考慮する必要があります.高速なデータ転送が必要なアプリケーションでは,AXIバスの複数チャネルを活用して並列処理を行う設計が適しています.

IPコアを活用したシステム設計

IPコア(Intellectual Property Core)は,カスタム回路や標準的な周辺機能(ペリフェラル)をFPGAに統合するための設計単位です.Zynqでは,自作のIPコアを作成することも,Xilinxが提供する標準IPコアを使用することも可能です.GPIO(General Purpose Input/Output)やUART(Universal Asynchronous Receiver-Transmitter)などの周辺機能は,IPコアとして簡単に統合できます.

カスタムIPコアの作成には,Vivado Design Suiteを使用します.IPコアを作成した後,AXIインターフェースを介してプロセッサと接続することで,柔軟なデータ処理が可能になります.

オンチップ・バスのデータの流れ

オンチップ・バスは,Zynq SoCにおいてデータの流れを支える中核的な役割を果たします.AXIバスを例に,その特徴と設計上のポイントを掘り下げて解説します.

AXIバスの特徴

AXIは,次世代のシステム設計に対応するために設計されたインターフェース規格です.主な特徴として,以下が挙げられます.

  1. 高い帯域幅
    マルチチャネル通信により,プロセッサと複数のIPコア間で同時にデータを転送可能です
  2. フレキシブルな設計
    バースト・モード転送をサポートしており,大量データの効率的な転送が実現します.また,ライトバスとリードバスを分離しているため,データ衝突を回避できます
  3. 適応性
    システム要件に応じて,異なるクロック・ドメイン間の通信を容易に設定できます

設計時の注意点

AXIバスを設計する際には,次の点を考慮する必要があります.

  1. 帯域の最適化
    必要な帯域幅を予測し,バス幅やクロック周波数を調整します.高速な画像処理アプリケーションでは128ビット以上のバス幅を推奨します
  2. レイテンシの管理
    高速通信を実現するには,遅延を最小化するためにバッファの適切な配置が必要です
  3. 階層的設計
    複数のバスを階層的に設計することで,負荷を分散し,効率的な通信を確保します

オンチップ・バスは,Zynq SoCのパフォーマンスを最大限に引き出す鍵になります.設計段階での十分な考慮が,高効率なシステムを構築するための第一歩です.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • NTT,IBM,Sony,NECの各研究所において高性能回路IPやハイレベル・シンセシスの研究,およびプレイステーションなどの製品用SoC開発に従事した後,現職にて民間宇宙ロケットの飛行制御コンピュータの研究開発に従事.FPGAや高位合成を活用している

著書

  1. [VOD/KIT]一緒に動かそう!Lチカから始めるFPGA開発【基礎編&実践編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/KIT]Xilinx製FPGAで始めるHDL回路設計入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]一緒に動かそう!Lチカから始めるFPGA開発【基礎編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/KIT]Zynqで初めてのFPGA×Linux I/O搭載カスタムSoC製作,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/KIT]Tiny FPGA実習!高校生から始めるHDLプログラミング,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [VOD/Pi KIT]カメラ×ラズパイで一緒に!初めての画像処理プログラミング,ZEPエンジニアリング株式会社.
  7. スパコンでも破れない!高セキュリティ・マイコン・プログラミング,ZEPエンジニアリング株式会社.
  8. [YouTube]宇宙軌道ロケット 成功の方程式
  9. [YouTube]宇宙ロケットの電子回路開発
  10. FPGA/Zynqで作るカスタム・コンピュータ・チップ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  11. Lチカ入門!ソフトウェア屋のためのHDL事はじめ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  12. USBカメラの動画キャプチャ&描画用 Pythonプログラム,ZEPエンジニアリング株式会社.
  13. ライブラリ完備!組立式ラズパイI/O増設ボード MCC DAQ HATSファミリ誕生,ZEPエンジニアリング株式会社.

参考文献

  1. [VOD/KIT] 実習キットで一緒に作る!オープンソースCPU RISC-V入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/KIT]ARM Cortex-A9&FPGA内蔵SoC Zynqで初体験!オリジナル・プロセッサ開発入門,ZEPエンジニアリング株式会社.