高速伝送向け基板材といえばPPE/Rogers/テフロン


計測のためのA-Dコンバータ実装術

高速伝送を支える基板材選びの基本

図1 PPEは,FR4よりも低い比誘電率と誘電正接をもち,ロスが小さい基材.加工性や耐熱性にも優れ,テフロンに近い電気特性をもちながら,コストを抑えることができる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[著]藤森 弘己
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高速ディジタル信号や高精度アナログ信号の伝送には,基板材の選定が重要です.代表的な基板材としてFR4,PPE,ロジャース基板(セラミック・フィラー樹脂),テフロン(PTFE)などが挙げられます.

FR4はエポキシ樹脂を使ったガラス・クロス基板で,安価で加工性に優れるため,もっとも広く使われています.GHz帯域でも利用可能ですが,誘電特性に限界があります.

PPEはFR4よりも低い比誘電率と誘電正接をもち,ロスが小さいです.加工性や耐熱性にも優れ,テフロンに近い電気特性をもちながら,コストを抑えられる点が特徴です.

セラミック・フィラー樹脂とPTFEの高周波対応力

ロジャース基板として知られるセラミック・フィラー樹脂は,セラミック粉末を充填剤(フィラー)とした樹脂です.高周波特性が良好で,比誘電率が低く,誘電正接も小さいです.また,絶縁性に優れ,定電流回路や低リーク設計に適しています.加工性もセラミック単体に比べて大幅に向上しています.

PTFE,一般に「テフロン」と呼ばれる材料は,さらに高周波特性に優れています.非常に低い比誘電率と高絶縁性をもち,高精度アナログ回路や高速ディジタル伝送に適しています.コストが高いため,用途は限定されがちですが,もっとも高性能な選択肢です.

各種基板材の比較

  1. FR4:安価で加工性良.GHz帯域でも利用可能
  2. PPE:低比誘電率,低誘電正接,耐熱性良
  3. セラミック:加工性難.高絶縁性,低誘電正接
  4. ロジャース基板:高絶縁,加工性良.高周波特性が優れる
  5. PTFE(テフロン):高周波特性最良.高絶縁.高コスト

まとめ

高速伝送や高精度アナログ処理では,信号の波形保持やノイズ対策の観点から,比誘電率や誘電正接の小さい材料を選ぶ必要があります.FR4は汎用性が高いですが,より厳しい要求にはPPEやロジャース,PTFEといった材料が重要です.加工性,コスト,性能のバランスを考慮した選定が求められます.

比誘電率が信号品質に与える影響

比誘電率($\varepsilon_r$)は,誘電体が電場をどれだけ蓄えるかを示す指標です.この値が高いほど,信号の伝搬速度が遅くなり,インピーダンスや立ち上がり時間にも影響を与えます.高周波領域ではこの特性が配線遅延や反射を引き起こす要因となるため,設計時に無視できないパラメータです.

FR4の$\varepsilon_r$は4.0以上とされ,基板の厚みや信号線の寸法に応じてインピーダンス整合が難しくなります.ロスも比較的大きく,GHz帯域での使用には注意が必要です.対して,PTFE(テフロン)は2.0?2.5の範囲にあり,信号速度が速く,立ち上がりもシャープに保てます.PPEやロジャース基板も2.0?3.5程度と低めの比誘電率をもち,これらは高速伝送に向いた材料といえます.

比誘電率の安定性と温度依存性

材料によっては,温度変化に伴い$\varepsilon_r$が変化する場合があります.これにより,信号遅延や位相ずれが生じることがあります.特に高精度A-Dコンバータやクロック信号の取り扱いでは,温度依存性が小さい材料の選定が安定した動作につながります.

ロジャース基板やPTFEはこの点でも優れています.セラミック・フィラーを含むロジャース基板は温度安定性が高く,$\varepsilon_r$の変動が小さいです.結果として,周波数変動や信号ジッタを抑えることができます.

実装設計時の指標としての活用

  1. トレースのインピーダンス計算に$\varepsilon_r$を用いる
  2. 配線長に応じた伝搬時間の見積もり
  3. 差動ペアの制御インピーダンス設計
  4. リターン・ロスや反射対策の設計評価
  5. 温度補償設計における材料選定

まとめ

比誘電率は回路設計における基本的な指標であり,特に高速信号処理やアナログ精度を重視する回路においては最優先で検討すべき要素です.誘電率の低い材料は信号速度や波形品質の面で有利ですが,コストや加工性も含めた全体設計の中で最適化することが重要です. 〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1979年 芝浦工業大学 通信工学科卒業
  • 同年 Analog Devices of Japan Inc に入社(後にアナログ・デバイセズ株式会社)同社にてアナログ・モジュール開発,Mixedシグナル・テスタのテスト・モジュール開発、高速リニア・カスタム集積回路の開発サポート,汎用リニア製品マーケティング等を担当.

著書

  1. OPアンプ増幅回路の2つのゲイン,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【差動信号とその周辺回路設計技術】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【A-D/D-Aコンバータの使い方】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.

参考文献

  1. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]高精度アナログ計測回路&基板設計ノウハウ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [Book]電子回路とプリント基板のノイズ解決 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.