信頼性は破壊しないとわからない
プリント基板 10の見極め方と検査術
導通と絶縁がプリント基板の信頼性
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図1 抵抗値が中途半端な状態や経時変化する現象は,電気検査では検出が難しい.破壊検査によるマイクロレベルの確認が必要.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]寺田 正一 詳細:[VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】【セッション2】目視からX線まで!プリント基板 10の見極め方と検査術 |
プリント基板の信頼性を評価する際,もっとも重要となるのが導通と絶縁の2点です.導通とは,電流が正しく流れることを意味します.絶縁とは,流れてはいけない部分に電流が漏れないことです.これらは基板設計の根幹をなす性質です.
断線は,抵抗値が非常に大きい場合を指します.ショートは,その逆で抵抗値が小さすぎる状態です.どちらも出荷時に電気検査や目視検査で検出できます.ただし,基板の信頼性を本当に確かめるには,それだけでは不十分です.
抵抗値が「中途半端」な状態とは何か
抵抗値が中途半端な状態は,明確な断線やショートと異なり,電気的にグレー・ゾーンにある状態です.たとえばスルーホールのメッキが不均一である場合,一見導通していても,長期的には不具合が生じる可能性があります.
このような状態を見極めるには,破壊検査が有効です.破壊検査の一例として,マイクロセクションがあります.これは,スルーホールなどの断面を物理的に切断し,樹脂で固めて研磨し,顕微鏡で詳細に観察する手法です.観察項目には,メッキの厚さ,穴の粗さ,メッキのクラックなどが含まれます.
検査技術の選定と信頼性の保証
プリント基板は量産品であるため,全数破壊検査を行うわけにはいきません.そこで,サンプリング検査を用いながら,設計段階での品質保証が求められます.最終的には,以下のような検査技術を適切に組み合わせて信頼性を担保します.
- 目視検査:基板表面の外観異常を確認
- 電気検査:導通と絶縁の初期異常をチェック
- マイクロセクション:内部構造の確認に用いる破壊検査
信頼性を確保するためには,単なるOK/NG判定だけではなく,検査の奥行きや長期安定性までを考慮することが重要です.
まとめ
プリント基板の信頼性は「導通」と「絶縁」が基本です.抵抗値が中途半端な状態や経時変化する現象は,通常の電気検査では検出が難しいです.破壊検査によるマイクロレベルの確認が必要になります.品質を保証するには,設計段階からの検証と適切な検査の組み合わせが求められます.
抵抗値の経時変化が引き起こす信頼性問題
抵抗値の経時変化とは,時間の経過や使用環境の変化によって,電気回路の抵抗値が徐々に変化していく現象です.この変化が大きくなると,初期には問題がなかった導通や絶縁が損なわれ,動作不良や誤動作が発生します.
経時変化の主な原因には,材料の劣化,メッキの酸化,熱ストレスによるクラック形成があります.特にプリント基板のスルーホールやビア部分では,熱膨張と収縮の繰り返しによって,導体層に微細なクラックが生じることがあります.これが累積すると,抵抗値が徐々に上昇します.
外観では見えない「じわじわ劣化」
経時変化の厄介な点は,外観や初期の電気検査では検出が難しいことです.表面的には問題がなくても,内部の導体が劣化していれば,長期的な運用中に不具合が発生します.特に温度変化の大きい環境や振動の多い用途では,この傾向が顕著です.
抵抗値の変化は,小数オーム単位で始まります.出荷検査では問題なく通過しても,数カ月後にはしきい値を超えて,通信エラーや電源不安定などの不具合につながります.これを未然に防ぐには,耐久試験や加速劣化試験の導入が効果的です.
経時変化を考慮した設計と検査
経時変化を抑制するためには,設計段階からの対策が必要です.たとえば,スルーホールのメッキ厚を一定以上に保つことや,熱膨張率の近い材料を選定することが挙げられます.加えて,下記のような検査と評価を取り入れることで,長期信頼性を確保できます.
- 加速劣化試験:高温・高湿環境で長期使用を模擬
- マイクロセクション観察:内部の劣化兆候を直接観察
- 定期通電試験:一定電流下での抵抗値変化を記録
経時変化は目に見えない敵ですが,確実に信頼性を蝕みます.長期使用を想定した回路や機器では,初期性能だけでなく時間とともに変化する性質を視野に入れて設計することが求められます.
まとめ
抵抗値の経時変化は,プリント基板の隠れた劣化要因です.目視や出荷検査では検出困難なため,耐久性の設計とマイクロセクションを含む詳細な検査が不可欠です.長期運用に耐えるためには,時間軸に沿った信頼性評価が重要です.
〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 1972年 中央大学理工学部工業化学科卒業
- 1972年 株式会社トゴシをかわきりに,設計・EMS業の株式会社ソーワコーポレーション,株式会社オーケープリントで,基板およびEMS事業の品質保証,技術開発全般に従事.その間,JIS規格,JPCA規格,JAXA規格などの制定に従事
- 2013年 テラテック設立.プリント配線板関連の技術指導,技術開発,試作開発コンサルティング,研修などを手がける
著書
参考文献
- 逆引き101!KiCad&プリント基板設計テクニック集,ZEPエンジニアリング株式会社.
- 最新KiCad 6で一緒に始めよう!プリント基板開発 超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.