信頼性が一目瞭然 スルーホール断面


プリント基板の正しい見極め方

スルーホール断面に潜む不良

図1 スルーホールの断面観察によって,通常の電気検査では見えない不良を検出できる.樹脂ミアやウィッキング,ボイドなど,微細な欠陥は長期信頼性に直結するため,加工精度と断面品質の評価が重要.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]寺田 正一
詳細:[VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】【セッション2】目視からX線まで!プリント基板 10の見極め方と検査術

プリント基板におけるスルーホールは,内層の配線と表層を電気的に接続するための重要な構造です.ドリルで開けられるこの穴は,加工時の物理的な要因によって微細な不具合が生じることがあります.外観からはわかりづらい断面上の欠陥は,長期的な信頼性に大きく影響します.

穴の壁がガタついていたり,削りカスや溶けた樹脂が接続部に残ると,導通状態を保っているように見えても,内層銅箔との接続が不完全になります.電気検査では一時的に導通しているため問題が検出されないことが多いですが,経年変化によって断線が発生し,重大な故障に繋がる危険があります.このような現象は「樹脂ミア」と呼ばれます.

断面観察で見抜くべき3つの構造不良

  1. 樹脂ミア:スルーホール内部に残った溶融樹脂が内層とスルーホールの接続を絶縁する
  2. ボイド(ピンホール):メッキの不完全さによって形成される微細な空隙が導通を妨げる
  3. ウィッキング:樹脂とガラス繊維の界面が剥がれ,そこにメッキ液が侵入しマイグレーションを誘発する

ウィッキングは,ドリルによる加工ストレスで内部層材が剥がれることで発生します.この剥がれにメッキ液が侵入すると,導体間で金属イオンが移動し,絶縁破壊やショートを引き起こすことがあります.目視検査では見逃しやすく,顕微鏡下での断面観察が不可欠です.

検査と評価の最前線

スルーホールの信頼性を評価するには,通常の電気検査だけでは不十分です.光の当て方や撮影角度を変えて詳細に観察することで,微細な構造欠陥を見逃さずに済みます.とくにメッキの厚みや密着性は測定が難しく,信頼できる検査手法の選定が課題になります.

マイクロセクションによる破壊検査は,スルーホール内部の状態を視覚的に確認できる唯一の方法です.設計段階から断面品質を管理し,長期信頼性を確保するためには,適切な観察と評価が必要です.

まとめ

スルーホールの断面観察によって,通常の電気検査では見えない不良を検出できます.樹脂ミアやウィッキング,ボイドなど,微細な欠陥は長期信頼性に直結するため,加工精度と断面品質の評価が重要です.

電気的には問題なし,しかし時間とともに断線

「樹脂ミア」とは,スルーホール加工時に発生する樹脂残渣が,内層銅箔とスルーホールの導通部に介在する現象です.ドリルで穴を開けた際に,基板内部にある絶縁樹脂が熱で溶けたり削られて発生した微細なカスが接続面に残ることで起こります.

導電性のない樹脂が間にあると,導通状態が不安定になります.完全に分離していれば電気検査で異常とされますが,わずかに接触していれば一時的に電流が流れて「正常」と判定されます.この状態が長期間放置されると,熱や振動,環境の影響で接触が完全に断たれ,回路が突然切断される可能性があります.

なぜ検出が難しいのか

電気検査の信号は瞬間的であり,微小な接触でも「導通あり」と判断してしまいます.導体どうしが不完全に接触している状態では,通電の信頼性が著しく低く,繰り返しの温度変化や機械的ストレスで導通が絶たれやすくなります.

外観検査では確認できないため,樹脂ミアの検出には断面観察が必要です.顕微鏡で接続部を直接見ることで,メッキの状態や異物の付着状況を把握できます.設計段階での穴配置や層構成にも影響されるため,製造と設計の両面からの対策が求められます.

設計と製造の両輪での対策

  1. 穴開け時のドリル速度や回転数を最適化することで,溶融樹脂の発生を抑える
  2. クリーニングプロセスを見直し,削りカスを確実に除去する
  3. 設計段階で内層パターンとスルーホールの重なり位置を最適化する

樹脂ミアは単なる加工上の不具合ではなく,プリント基板の長期信頼性に直結する深刻な要因です.現場での検査技術の向上とともに,設計思想から改善を行うことが不可欠です.

まとめ

樹脂ミアは,一見正常に見えるスルーホールに潜む信頼性リスクです.電気検査では見逃される可能性があるため,マイクロセクションによる断面観察が不可欠です.製造条件と設計配慮の両方から,この問題に取り組む必要があります.

〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1972年 中央大学理工学部工業化学科卒業
  • 1972年 株式会社トゴシをかわきりに,設計・EMS業の株式会社ソーワコーポレーション,株式会社オーケープリントで,基板およびEMS事業の品質保証,技術開発全般に従事.その間,JIS規格,JPCA規格,JAXA規格などの制定に従事
  • 2013年 テラテック設立.プリント配線板関連の技術指導,技術開発,試作開発コンサルティング,研修などを手がける

著書

  1. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】

参考文献

  1. 逆引き101!KiCad&プリント基板設計テクニック集,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. 最新KiCad 6で一緒に始めよう!プリント基板開発 超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
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