アンプ? or トランス?シングルエンド-差動変換


低ひずみ&高$S/N!$アナログ計測の定石

A-D/D-A変換の入出力や電流センシングまで!計測分野の定番

図1 微小な信号を伝送したり,増幅したりするときはシングルエンド信号ではなく差動信号が利用される.低ひずみ,高$S/N$などのメリットが多いからだ.[著・提供]藤森 弘己画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は[VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【差動信号とその周辺回路設計技術】

アンプ vs トランス!シングルエンドから差動変換の技術と応用

シングルエンドと差動信号の基本

シングルエンド信号と差動信号の違いは,多くの計測や通信システムにおいて重要なポイントです.シングルエンド信号は1つの基準(通常はグラウンド)に対して信号をやり取りしますが,差動信号は2つの逆相の信号を用います.このため,差動信号はシングルエンド信号に比べてノイズ耐性が高く,精度の高い測定に適しています.特に,高精度計測やセンサ計測では,差動信号の使用が有利です.

\[ V_{\text{diff}} = V_{\text{in+}} - V_{\text{in-}} \]

差動信号はこのように2つの入力の差を取ることでノイズを打ち消し,高精度な測定を実現します.

差動アンプとトランスの選択

シングルエンド信号を差動信号に変換する方法として,一般的に用いられるのが差動アンプとトランスです.各方法にはそれぞれの利点があり,用途に応じて適切に選択することが重要です.

  1. トランス
  2. トランスは,高周波領域において非常に優れた性能を発揮します.例えば,IF/RF回路では,SAWフィルタやミキサーなどで差動信号が多用されます.また,トランスは電源が不要であり,信号に含まれるノイズをそのまま伝送することができ,非常に広帯域での使用が可能です.しかし,トランスは原則としてAC信号の伝送にだけ適しており,DC信号には不向きです.
  3. 差動アンプ
  4. 差動アンプは,DC帯域から使用可能で,シングルエンド信号を差動信号に変換する際の代表的な回路です.ゲイン設定やノイズの抑制,ひずみ特性に優れており,特に低周波数帯域での精度が求められるアプリケーションで効果を発揮します.

\[ \begin{align*} V_{\text{out+}} &= A(V_{\text{in+}} - V_{\text{in-}}) \\ V_{\text{out-}} &= A(V_{\text{in-}} - V_{\text{in+}}) \end{align*} \]

差動アンプでは,出力信号は差動構成によりひずみが少なく,ノイズの影響も軽減されます.

高速・高精度測定での応用

高速D-Aコンバータや高精度A-Dコンバータを用いるシステムでは,差動アンプの使用が推奨されます.特に,電流モニタやバッテリ・セルの電圧計測,各種センサからの信号処理において,差動信号を用いることで,より精度の高い測定が可能になります.

シングルエンドから差動への変換技術とその応用

差動信号の利点

差動信号は,特に低電圧での動作が求められるシステムや,高周波での動作が必要な回路において大きな利点があります.シングルエンド信号と比較して,差動信号は2倍の振幅を扱うことができ,偶数次のひずみを抑制する効果ももっています.

\[ A_{\text{diff}} = 2A_{\text{single}} \]

このため,低電圧動作やノイズ耐性が求められるアプリケーションで,差動信号の使用が推奨されます.

高速D-A/A-Dコンバータでの差動アンプの役割

高速D-AコンバータやA-Dコンバータの入力には,差動信号が最適です.シングルエンド信号も使用可能ですが,差動信号に比べてノイズやひずみに対する性能が劣ります.AD7690などの高精度A-Dコンバータを駆動する場合,差動アンプを使用することで,信号の精度を保ちながらノイズの影響を最小限に抑えることができます.

\[ SNR_{\text{diff}} > SNR_{\text{single}} \]

また,差動アンプを使用することで,フィードバック制御により信号のバイアスやゲイン設定も柔軟に行うことができます.

トランス vs 差動アンプの選定

システム設計において,トランスと差動アンプのどちらを選択するかは,取り扱う信号の周波数帯域や駆動の電源の有無によります.例えば,トランスは高周波での駆動に優れていますが,AC信号にだけ対応します.一方,差動アンプはDCからACまで幅広い帯域で使用可能であり,電力増幅も行うことができます.

それぞれの特性を理解し,適切な選択を行うことで,システム全体のパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能です.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1979年 芝浦工業大学 通信工学科卒業
  • 同年 Analog Devices of Japan Inc に入社(後にアナログ・デバイセズ株式会社)同社にてアナログ・モジュール開発,Mixedシグナル・テスタのテスト・モジュール開発、高速リニア・カスタム集積回路の開発サポート,汎用リニア製品マーケティング等を担当.

著書

  1. OPアンプ増幅回路の2つのゲイン,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]高速&エラーレス!5G×EV時代のプリント基板&回路設計 100の要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【差動信号とその周辺回路設計技術】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]アナログ・デバイセズの電子回路教室【A-D/D-Aコンバータの使い方】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.

参考文献

  1. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]高精度アナログ計測回路&基板設計ノウハウ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [Book]電子回路とプリント基板のノイズ解決 即答200,ZEPエンジニアリング株式会社.