自作CPU入門8:実用的なプログラミングができる回路作り
高校生のための自作CPU[入門編]
[Webinar/KIT/data]新人技術者のためのRISC-V CPU設計 初めの一歩(5月31日~6月7日,2日コース)
割り込み処理やパイプライン,スタックの導入
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図1 CPUを自作するならプログラムを効率的に動かすために,割り込み処理やパイプライン,スタックなどを導入したい.画像クリックで動画を見る.または記事を読む |
無駄のない自作CPUの実用性とは
CPUを自作する際,単に命令を実行するだけでは実用性が低く,実際のプログラムを効率的に動かすには工夫が必要です.割り込み処理やパイプライン,スタックの導入など,一般的なCPUで使われているしくみを一部でも取り入れることで,飛躍的に使いやすさが向上します.
自作CPUの実用性とは,ソフトウェア開発の容易さや処理速度,機能の拡張性に直結します.たとえば,戻り先を保持する機構がなければ,関数のような処理の再利用が難しく,構造化されたプログラムを書くことが困難です.回路的に動作するだけでなく,実用的に動作するCPUを設計するには,こうしたしくみを理解し,必要最低限の実装を行うことが求められます.
自作の利点とブラックボックスの回避
市販のCPUは高性能ですが,その内部構造は複雑で,仕様書やリファレンスだけでは把握しきれません.自作することで,何がどこまでできるのかを把握し,必要に応じて機能を追加することが可能になります.
ブラックボックスではない自作CPUであれば,システム設計時の柔軟性が増し,限られた用途に特化した設計も可能です.たとえば,消費電力を最小限に抑えたい,特定の演算だけを高速に処理したい,といった目的に応じた回路設計が行えます.
実用性向上のために必要な要素
- スタックとサブルーチンの導入による関数呼び出しの実現
- スタック・ポインタを用いた戻り番地の管理
- 割り込み処理に備えたメモリ領域の管理
- パイプライン構造による処理の並列化
特にスタックとサブルーチンは,プログラムの構造化に不可欠な要素であり,命令の順序性や再帰処理の実装に関わります.実用性を高める第一歩として,これらのしくみを理解し,回路に反映させることが重要です.
スタックとサブルーチンの基本的なしくみ
プログラミングにおいて関数は,処理の再利用性や可読性の向上に欠かせない存在です.CPU回路において関数に相当するのが「サブルーチン」です.サブルーチンとは,ある命令から離れた場所の処理を一時的に呼び出し,処理終了後に元の場所へ戻る機構です.この「戻る」動作を支えるのがスタックです.
スタックは,メモリ上に積み重ねて情報を記憶していく領域です.呼び出し元の命令番地を保持しておくことで,サブルーチンの終了後に正確な場所へ制御を戻すことができます.
スタック・ポインタによる制御
スタック・ポインタとは,スタック領域のうち次に使う番地を示すレジスタです.たとえば,スタック領域が9999番地から始まる場合,初期状態ではスタック・ポインタは9999を指します.call命令が実行されるたびに戻り先番地がスタックに書き込まれ,スタック・ポインタは1つずつ減っていきます.
この機構により,複数のサブルーチン呼び出しがネストされた場合でも,呼び出し順に対応する戻り先番地を保持できます.サブルーチンが終了し,return命令が実行されると,スタックから番地を取り出して制御を戻します.
メモリ領域の設計と注意点
スタック領域はメモリ空間の一部に設けます.たとえば,プログラム領域を0~249番地,スタック領域を9999番地から逆方向に定義するとします.このように領域を分離しないと,スタックの拡張によってプログラム領域が上書きされる危険があります.
- スタックとプログラムの領域を明確に分離する
- スタックの深さに応じた十分なメモリ領域を確保する
- スタック・ポインタの制御ミスが致命的なバグにつながることを理解する
スタックの制御はCPU内部の回路で行います.スタック・ポインタを操作し,対応するアドレスに書き込み/読み出しを行う回路を設計することで,安定した制御の実現が可能です.
〈著:ZEPマガジン〉動画を見る,または記事を読む〈著:ZEPマガジン〉
チャプタ・リスト
- 1:12 今回の内容
- 3:08 1.スタックとサブルーチン
- 8:39 2.割り込み
- 11:333.命令実行の高速化
- 13:25 4.キャッシュとメモリ階層
- 14:41 5.DMA(Direct Memory Access)
- 15:41 6.拡張命令やアクセラレータ
- 15:58 7.デバッグ支援
- 16:41 おまけ:自作CPU派に!お勧め開発キット
著者紹介
- NTT,IBM,Sony,NECの各研究所において高性能回路IPやハイレベル・シンセシスの研究,およびプレイステーションなどの製品用SoC開発に従事した後,現職にて民間宇宙ロケットの飛行制御コンピュータの研究開発に従事.FPGAや高位合成を活用している
著書
- [VOD/KIT]一緒に動かそう!Lチカから始めるFPGA開発【基礎編&実践編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]Xilinx製FPGAで始めるHDL回路設計入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]一緒に動かそう!Lチカから始めるFPGA開発【基礎編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]Zynqで初めてのFPGA×Linux I/O搭載カスタムSoC製作,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]Tiny FPGA実習!高校生から始めるHDLプログラミング,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/Pi KIT]カメラ×ラズパイで一緒に!初めての画像処理プログラミング,ZEPエンジニアリング株式会社.
- スパコンでも破れない!高セキュリティ・マイコン・プログラミング,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [YouTube]宇宙軌道ロケット 成功の方程式
- [YouTube]宇宙ロケットの電子回路開発
- FPGA/Zynqで作るカスタム・コンピュータ・チップ,ZEPエンジニアリング株式会社.
- Lチカ入門!ソフトウェア屋のためのHDL事はじめ,ZEPエンジニアリング株式会社.
- USBカメラの動画キャプチャ&描画用 Pythonプログラム,ZEPエンジニアリング株式会社.
- ライブラリ完備!組立式ラズパイI/O増設ボード MCC DAQ HATSファミリ誕生,ZEPエンジニアリング株式会社.
参考文献
- [VOD/KIT] 実習キットで一緒に作る!オープンソースCPU RISC-V入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]ARM Cortex-A9&FPGA内蔵SoC Zynqで初体験!オリジナル・プロセッサ開発入門,ZEPエンジニアリング株式会社.