[キット・モジュール]
無帰還純A級オールディスクリート・ヘッドホン・パワーアンプ
MZ-HPA1000

磁束漏れの少ないRコア・カスタム・トランス搭載、余裕の1200mW@30Ω駆動

無帰還純A級オールディスクリート・ヘッドホン・パワーアンプ
MZ-HPA1000の概要

動画1 無帰還純A級オールディスクリート・ヘッドホン・パワー・アンプの組立

原音だけでなくアンプの音までも忠実に再生するプロ用モニタ・ヘッドホン “MDR-M1ST”

どんなヘッドホンでも躍動感あふれる「音楽」が奏でられる再生機を目指して,パワー・アンプ並みの大容量電源を搭載したフルディスクリートの純A級無帰還型アンプ MZ-HPA1000(写真1写真2)を開発しました.

(a)フロント・パネル
(b)リア・パネル
写真1 MZ-HPA1000の外観
“IMPEDANCE"セレクタで,パワー・アンプの出力インピーダンスを100Ω(HIGH)/10Ω(MIDDLE)/0Ω(LOW)の3段階に切り換えることができる.切り換え回路は電源基板(後述)に搭載されている.特に,ダイヤフラムの大きいヘッドホンで音質の変化が大きい
写真2  MZ-HPA1000の内部

開発にあたり,30年以上の長きにわたり,世界中のスタジオでプロの楽曲製作を担ってきたソニーのプロ用モニタ・ヘッドホン「MDR-900ST」の後継機種「MDR-M1ST(2019年8月発売)」をターゲットにしました(写真3).

写真3 音源だけでなく増幅システムの特性まで再現するプロ用スタジオ・モニタ MDR-M1ST

MDR-M1ST発売後すぐに入手して試聴したところ,OPアンプで駆動すると,そのOPアンプそのものの音を,スマホに挿すとスマホの内蔵アンプそのもの音を出すことに気づきました.半導体の素性を損なわずに再生できることは,正しい「モニタ」の姿ですが,音楽も楽しめるものに仕上げたいと考えました.

高級なリスニング向けヘッドホンは,どんなアンプで駆動しても,それ自体が勝手に良い音に響くように設計されています.一方,MDR-M1STはそういった響き成分をまったく加えることがない,ありのままをさらけ出す「真のモニタ」です.

表1にスペックを,図1に3枚の基板の接続を示します.

表1 無帰還純A級オールディスクリート・ヘッドホン・パワー・アンプ MZ-HPA1000のスペック
図1 本キットは2チャネル分のパワー・アンプ基板と電源基板の3枚で構成されている

各増幅段の特性を磨いてオーバーオールの負帰還は極力かけない

図2に示すのは,開発した純A級電力増幅段をもつフルディスクリート・ヘッドホン・アンプ MZ-HPA1000の全回路です.

図2 本キットのパワー・アンプ回路
交流信号の負帰還は最終段からはいっさい掛けていない.電圧増幅2段目からの戻しはショート・ジャンバを取り付けることで完全に撤廃できる.スピーカより感度の高いヘッドホンで問題になるDCオフセットを低減するため,$0.05\mathrm{Hz}$以下の直流成分だけ最終段から帰還している

電圧増幅部の裸特性(周波数特性やひずみ,$SN$比)をできるだけ磨いて,オーバーオールの負帰還(NFB,Negative Feed-Back)による補正を最小限にした構成です(図3).

図3 MZ-HPA1000のゲイン-周波数特性

交流信号の負帰還は,最終段からはいっさい掛けていません.電圧増幅2段目から少しだけ戻していますが,これもショート・ジャンバで切り換えで撤廃することができます.DCオフセットを低減するため,$0.05\mathrm{Hz}$以下の直流成分だけ最終段から帰還しています.

ここでいう完全無帰還とは,前段へ戻す負帰還経路がないという意味です.実際には,各増幅段で自己帰還を掛けています.

アンプのひずみ率を小さくしたり$SN$比を高めることが目的ならば,高速で高精度なOPアンプを使って多量の負帰還をかけるのが近道でしょう.しかし,ひずみ率や$SN$比だけを追い求めるのではなく,真空管アンプのように特色のあるアンプで音楽を楽しく聴くという趣味性の高いものがあっても良いと考えました.

実際には,オーバーオールの負帰還によるデメリットはありません.「ボイス・コイルで生じる逆起電力の影響を断ち切るため」と無帰還を推すアンプも市販されていますが,逆起電力よりもNFBのほうがはるかに応答が速いので,その影響は補正されるでしょう.1つだけ言えるのは,帰還なしでまともな特性や音質を得るためには,電源や出力段の素性をがんばって磨く必要があるという点です.

今回は,$180\mathrm{mA}$のアイドリング電流が流れる4並列のA級プッシュ・プル出力段をもつ$20\mathrm{W}+20\mathrm{W}$のパワー・アンプに使える電源を搭載して,十分なひずみ特性と音質を得ることに成功しました.

惜しみなく電流を流す低ひずみな出力段

出力段にはたっぷりアイドリング電流を流してトランジスタの直線性の良い部分を使い,最終段で発生するひずみを低減しました(図4).大きなアイドリング電流を支える大容量電源も搭載しています.

図4 本キットの出力-ひずみ率特性

磁束が漏れないカスタム・トランス

高感度なヘッドホンは,$10\mathrm{\mu}~20\mathrm{\mu V}$の信号が聴こえますから,わずかなハム・ノイズも許されません.

ハム・ノイズの出元は,電源リプルとトランスからの漏れ磁束です.漏れ磁束がプリント・パターンや配線のループを通過すると,ノイズを誘導します.アンプ基板へ電源を供給していなくてもトランスからの漏れ磁束が配線に直接飛び込んできて聴こえるほどです.この経験から,漏れ磁束(リーケージ・フラックス)がとても少ないカスタム・トランス(写真4)をPhoenix社に製作してもらいました.

写真4 漏れ磁束のきわめて少ないRコアの電源トランスを特注で製作 $10\mathrm{\mu}~20\mathrm{\mu V}$の微小な信号が聴こえる高感度なヘッドホンも多く,スピーカと違ってわずかなハム・ノイズは許されない

プロ用高精度電子ボリューム・キットの追加

MZ-HPA1000には,高精度電子ボリューム PGA2311(テキサス・インスツルメンツ)とPICマイコン(制御プログラム書き込み済み),電源を搭載したキット(MZ-PGA2311,写真5)を搭載できます(写真6).図5に回路図を示します.

写真5 本キットの抵抗式ボリュームは,別売のプロオーディオ用電子制御ボリューム(マイコン搭載) MZ-PGA2311に置き換えることができる
図5 MZ-PGA2311の回路図
写真6 MZ-HPA1000の抵抗式ボリューム RK27112AをMZ-PGA2311に置き換えたところ

詳しい使い方がわかる技術解説記事とマニュアル