プロービングは電界と磁界が分離している波源近傍で


プリント基板から放射される電磁波の測定技術

基板のすぐ近くなら電界と磁界を別々に測定できる

図1 電磁両立性 EMCの良好なプリント基板を設計するための第1歩は,電磁波の性質とその波源からの距離との関係を理解すること.画像クリックで動画再生.詳細は[VOD/KIT] [VOD/KIT] ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石を参照

プリント基板から放射される電界と磁界の測定は,電磁適合性(EMC)の確保において重要な工程です.EMCが良好な基板を設計するためには,基板から放射される電磁界を正確に測定して,問題箇所を正しく特定することが重要です.

まず,電磁波の性質とその波源からの距離との関係を理解しましょう.波長$\lambda$の1/(2$\pi$)以内の距離$D$では,電界と磁界はそれぞれわかれて作用します.これは,近接した領域において電界と磁界が独立して存在することを意味し,この領域では電界プローブと磁界プローブを使ってそれぞれを別々に測定することが可能です.一方,$D$が1/(2$\pi\lambda$)より遠い距離にある場合,電界と磁界は一体となって電磁波として進行します.この領域では,電磁波全体を考慮して測定します.

近傍磁界と平面波の強度についても考慮する必要があります.近傍磁界(距離rが小さい場合)では,磁界の強度Hは$1/r^{3}$に比例し,遠方においては$1/r$に比例します.これにより,基板からの距離が近いほど磁界は急激に減衰するため,精密な測定が求められます.遠方では,磁界の強度はそれほど変化しないため,基板にプローブを近づけてもノイズ源を特定するのが難しくなります.

磁界の測定には,特にシールドされた磁界ループプローブが効果的です.このプローブは,基板上の導体近傍で発生する磁界を測定するために設計されており,外部ノイズの影響を最小限に抑えることができます.磁界ループプローブの基本構造は,同軸線の中心導体の先端をループ状にして外部導体に接続し,外部導体の一部をカットすることで構成されています.この構造により,磁界を正確に捉えることが可能です.

市販されている磁界プローブや電界プローブにはさまざまな種類があります.一般的には,磁界プローブの径が大きいものほど周波数特性が低く,基板全体にわたる広範囲のノイズを検出するのに適しています.一方で,より小さい径のプローブは高周波数に対応しており,特定の場所のノイズ源を絞り込むのに有効です.このように,目的に応じたプローブの選定が重要です.

スリットなどの漏洩箇所を特定する際には,磁界プローブが電界プローブよりも効果的です.磁界プローブは,スリットから放射される磁界を捉えやすく,その構造が漏洩箇所の特定に適しています.また,電界プローブは,パターンに近づけることで電界を強く検出でき,電界の分布を測定するのに有効です.

基板上の電磁界測定とプローブの選び方

基板上の電磁界を測定する際,適切なプローブの選定が精度の高い結果を得るための鍵です.電磁適合性の観点から,基板から放射される電界と磁界の正確な測定は,ノイズの発生源を特定し,その対策を講じるために欠かせません.

まず,測定する対象が近傍磁界であるか遠方磁界であるかを判断することが重要です.近傍磁界は,基板からの距離が近いほど急激に減衰するため,精密な測定が求められます.このような場合には,シールドされた磁界ループプローブが有効です.シールド構造により,外部ノイズの影響を受けにくく,ノイズ源を正確に特定できます.

一方,遠方磁界の測定には,基板全体にわたる広範囲のノイズを検出できるよう,径の大きい磁界プローブが適しています.特に周波数特性が低いプローブは,低周波数のノイズを捉えるのに効果的です.これにより,基板全体のノイズ分布を把握しやすくなります.

電界の測定においては,電界プローブが使用されます.電界プローブは,基板パターンに近づけることで電界を強く検出する特性があり,特定のパターンにおける電界の分布を測定するのに適しています.特に,パターンとプローブのほう向を調整することで,電界の強度や分布を詳細に分析することが可能です.

プローブの径や構造に応じて測定可能な周波数帯が異なるため,測定の目的に応じたプローブの選定が重要です.例えば,高周波数のノイズを捉えるには小径のプローブが適していますが,広範囲のノイズを検出するには大径のプローブが効果的です.

プローブの選定に加え,測定時のプローブの配置や方向も重要です.電磁界の分布は,基板の設計やパターンの配置に大きく依存します.したがって,測定対象に応じてプローブの位置を適切に調整することが求められます.〈ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • メーカで高速ディジタル回路と高周波回路の開発設計に30年以上従事.高速回路設計,EMC対策回路設計のコンサルタント

著書

  1. [VOD/KIT]ポケット・スペアナで手軽に!基板と回路のEMCノイズ対策 10の定石,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Gbps超 高速伝送基板の設計ノウハウ&評価技術,ZEPエンジニアリング株式会社.

参考文献

  1. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]高精度アナログ計測回路&基板設計ノウハウ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  7. [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  8. [技術連載],ZEPエンジニアリング株式会社.
  9. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 [Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験],ZEPエンジニアリング株式会社.