ポケットネットアナ NanoVNAV2入門


リターン・ロスS11と通過ゲインS21の実測

NanoVNAV2によるSパラメータ測定入門

図1 無線機の送信回路からアンテナまでのインピーダンスが整合していない場合,信号の一部が反射し,送信効率が低下する.この問題は,リターン・ロスを測ることで原因を特定し最適化できる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]知念 幸勇
詳細:[VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門

NanoVNAV2とは

NanoVNAV2(SAAV2)は,小型で手軽なベクトルネットワーク・アナライザであり,最大3GHzまでの高周波測定が可能です.従来のデスクトップ型ベクトルネットワーク・アナライザと比較して,約1/1000の容積と1/500の価格で同様の機能を提供します.NanoVNAV2は,リターン・ロス($S_{11}$)や通過ゲイン($S_{21}$)の測定に適しており,電源供給はUSBから行われるため,ポータブルで便利な測定ツールとして広く活用されています.

リターン・ロス($S_{11}$)と通過ゲイン($S_{21}$)の測定手順

リターン・ロス($S_{11}$)は,入力ポートから反射される信号の割合を示し,アンテナやインピーダンス整合の評価に用いられます.通過ゲイン($S_{21}$)は,入力ポートから出力ポートに伝達される信号の比率を表し,フィルタやアンプなどの回路性能を評価するのに利用されます.

測定の流れ

  1. 接続と校正
    NanoVNAV2本体をPCとUSBケーブルで接続し,専用アプリ(nanovna-saver)を起動します.校正用SMA端子(SOLT: Short, Open, Load, Through)を使用して,測定周波数範囲に応じたキャリブレーションを実施します
  2. アッテネータの使用
    高周波信号の正確な測定のため,出力ポート(Rx)には10dBや15dBのアッテネータを接続します.これにより,測定系への過剰な信号入力を防ぎます
  3. 測定データの取得
    測定範囲(例:50k~3GHz)を設定し,掃引(Sweep)を開始します.測定データはアプリ上でグラフとしてリアルタイム表示され,Sパラメータの特性が視覚化されます.

アプリの活用: NanoVNAV2の強み

NanoVNAV2は,nanovna-saverという専用アプリを使用することで,USB経由での測定データ管理や詳細な解析が可能です.このアプリでは,最大1024ポイントまでのデータ取得が可能で,精密な特性評価をサポートします.

リターン・ロスとは

リターン・ロス($S_{11}$)は,高周波設計における重要な指標の1つです.これは,負荷インピーダンスが信号源インピーダンスにどれだけ近いかを評価する指標であり,次式で表されます.

$ S_{11} = 20 \log_{10} \left| \frac{V_{reflected}}{V_{incident}} \right| $

ここで,$V_{incident}$は入力信号の振幅,$V_{reflected}$は反射信号の振幅を示します.リターン・ロスの値が大きいほど,反射が少なく,効率的なエネルギ伝送が実現されていることを意味します.

アンテナ設計とインピーダンス整合

アンテナ設計において,リターン・ロスはアンテナの整合性を示す重要な指標です.例えば,携帯電話やWi-Fiデバイスでは,アンテナのリターン・ロスが良好であることで,信号強度が向上し,通信の安定性が確保されます.

リターン・ロスは高周波回路設計におけるインピーダンス整合の評価にも用いられます.送信回路からアンテナまでのインピーダンスが整合していない場合,信号の一部が反射し,送信効率が低下します.リターン・ロス測定を活用することで,これらの問題を特定し,設計を最適化することが可能です.

〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 沖縄高専名誉教授,GLEX代表 (教育・研究コンサルタント)
  • (株)東芝にて光通信用半導体・送受信器の開発,高周波デバイスの応用技術などに25年間従事.国立沖縄高専にて,アナログ・ディジタル電子回路,高周波回路の講義などに12年間従事.専門領域:光通信,無線工学,半導体工学, バイオ・エレクトロニクス(工学博士,第一級陸上無線技術士,電気通信主任技術者)

著書

  1. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. 7大電子回路シミュレータRF解析性能の見極め方,トランジスタ技術2020年1月号,CQ出版社.
  3. 測定周波数50k~900MHz 5千円のネットワーク・アナライザ NanoVNA,トランジスタ技術2020年7月号,CQ出版社.
  4. 2.5GHz帯アンテナとLNA回路製作,トランジスタ技術2020年2~3月号,CQ出版社
  5. QAM-OFDM変調ディジタル無線通信における多層・複合材料の電磁波遮蔽の評価,電子情報通信学会論文誌 招待論文2021年6月号,電子情報通信学会論文誌

参考文献

  1. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]高精度アナログ計測回路&基板設計ノウハウ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータMkⅡ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  7. [技術連載]5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 [Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験],ZEPエンジニアリング株式会社.