3GHzネットアナNanoVNA入門 共振回路のSパラ解析


NanoVNA実測 vs Qucsシミュレーション


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自宅でRF開発!2大ツール“NanoVNA”と“QucsStudio”

図1 数千円で買える3GHzネットワーク・アナライザNanoVNAと,DC解析,AC解析,Sパラメータ解析など多彩な機能を備えるQucsStudioは,高周波回路や無線回路の開発者の必需品.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]知念 幸勇
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1.高周波共振回路の解析とシミュレーション

高周波設計における重要な技術である共振回路の特性解析には,実測とシミュレーションの双方が不可欠です.

NanoVNAは,簡便なネットワーク・アナライザとして高周波特性の測定に利用されます.QucsStudioは,回路設計とシミュレーションの包括的なツールであり,DC解析,AC解析,Sパラメータ解析など多彩な機能を備えています.これらのツールを活用することで,実測とシミュレーションの差異を理解し,高精度な設計へと繋げることが可能です.

2.実測とシミュレーションの比較:周波数特性とQ値

実測では,共振回路の特性として,以下の点が確認されました.

  1. 共振周波数
    実測とシミュレーションの結果はほぼ一致しており,測定精度が高いことを示しています
  2. Q値の差異
    実測データでは,共振曲線の裾が狭く,シミュレーションよりも高いQ値が得られました

この差異の主な要因は,以下のような寄生効果に起因すると考えられます.

  1. 寄生インダクタンスやキャパシタンス
    実測では部品や配線の寄生成分が並列に加わり,特性に影響を与えます
  2. 損失要因
    部品の品質($Q$値)や基板の特性が測定結果に反映されるため,理想的なシミュレーション条件との差が生じます

3.QucsStudioを用いた高周波解析の基本

QucsStudioは,多機能かつ無料で利用できる回路シミュレータとして人気があります.

  1. Sパラメータ解析
    $S_{11}$や$S_{21}$の特性を評価し,共振特性を解析
  2. パラメータスイープ
    インダクタンスやキャパシタンスを変化させたシミュレーションで,共振周波数とQ値の変化を解析

基本的な手順

  1. 回路設計
    Lumped Components(集中定数素子)を用いてLC共振回路を構成.$C=5 \, \mathrm{pF}$,$L=1 \, \mathrm{nH}$を基準値としました
  2. シミュレーション設定
    周波数範囲を100 MHz~3 GHz,解析ポイント数を300とし,広範囲な周波数特性を取得
  3. 結果の確認
    Cartesianプロットでデータを可視化し,共振周波数とQ値を評価

QucsStudioでは,寄生成分をモデルに追加することで実測結果に近いシミュレーションが可能です.この際,$L_r$や$C_p$といった寄生インダクタンス・キャパシタンスの推定が必要です.

Q値とSパラメータ解析

1.高Q値回路の重要性

Q値は,共振回路の品質を示す重要な指標で,以下のように定義されます.

\[ Q = \frac{\omega L}{R} \quad \text{または} \quad Q = \frac{1}{\omega RC} \]

$\omega$は角周波数,$L$はインダクタンス,$R$は抵抗,$C$はキャパシタンスです.高Q値回路は,選択性が高く,損失が少ないため,フィルタや共振器として重要な役割を果たします.

2.Sパラメータ解析の基礎

Sパラメータ(散乱パラメータ)は,高周波回路における入力と出力の関係を表すもので,以下の要素が重要です.

  1. $S_{11}$
    入力ポートでの反射係数.$|S_{11}|$が小さいほどインピーダンス整合がよいことを示します
  2. $S_{21}$
    出力ポートでの透過係数.$|S_{21}|$が大きいほど信号が効率よく伝達されることを意味します

QucsStudioでは,これらのSパラメータを簡単に解析でき,共振回路の特性評価に適しています.

3.寄生成分がQ値に与える影響

寄生インダクタンス($L_p$)やキャパシタンス($C_p$)は,共振回路のQ値に大きな影響を与えます.これらの寄生成分を考慮した場合のインピーダンスは以下のようになります.

\[ Z = R + j\omega L + \frac{1}{j\omega C} \]

寄生効果により損失が増大し,Q値が変化するため,設計時にはこれらを正確にモデル化する必要があります.

〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 沖縄高専名誉教授,GLEX代表(教育・研究コンサルタント)
  • (株)東芝にて光通信用半導体・送受信器の開発,高周波デバイスの応用技術などに25年間従事.国立沖縄高専にて,アナログ・ディジタル電子回路,高周波回路の講義などに12年間従事.専門領域:光通信,無線工学,半導体工学, バイオ・エレクトロニクス(工学博士,第一級陸上無線技術士,電気通信主任技術者)

著書

  1. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. 7大電子回路シミュレータRF解析性能の見極め方,トランジスタ技術2020年1月号,CQ出版社.
  3. 測定周波数50k~900MHz 5千円のネットワーク・アナライザ NanoVNA,トランジスタ技術2020年7月号,CQ出版社.
  4. 2.5GHz帯アンテナとLNA回路製作,トランジスタ技術2020年2~3月号,CQ出版社
  5. QAM-OFDM変調ディジタル無線通信における多層・複合材料の電磁波遮蔽の評価,電子情報通信学会論文誌 招待論文2021年6月号,電子情報通信学会論文誌

参考文献

  1. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD]Before After!ハイパフォーマンス基板&回路設計 100の基本【パワエレ・電源・アナログ編】/【IoT・無線・通信編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]高精度アナログ計測回路&基板設計ノウハウ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD]事例に学ぶ放熱基板パターン設計 成功への要点,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータMkⅡ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  7. [技術連載]5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 [Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験],ZEPエンジニアリング株式会社.