樹木下でのRTK測位の実験と精度評価
単独高精度測位 みちびき補正信号CLAS入門
フィールドでRTK測定
![]() |
---|
図1 劣悪な受信環境である樹木下でRTK測位の精度の確認を実施したところ,やや大きなばらつきが確認されたが,誤差は1~2cm程度に収まっていた.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[著]岡本 修 詳細:[VOD] センチメートル測位RTKのしくみと開発技術 |
RTK測位は,リアルタイムに高精度な位置情報を得る手法です.実験では,オープンスカイに近い場所だけでなく,意図的に劣悪な受信環境である樹木下での測位精度の確認が行われました.
具体的には,約3mの直線レール上で台車を往復させ,20回分の軌跡を取得しました.一端を木の下に置き,他端は開空条件とすることで比較が可能となる構成です.
実験結果では,オープンスカイ側では南北方向にわずかなばらつきが見られる程度で,位置トレースは安定していました.一方,木の下ではやや大きなばらつきが確認されましたが,それでも誤差は1~2cm程度に収まっています.
高精度のカギは衛星の選別
この精度を実現できた理由は,受信衛星の選別処理にあります.衛星信号の受信感度(SNR)に基づき,感度が低い衛星を排除することで,木の影響を受けにくい測位が可能になりました.SNRマスクとして46dB-Hzを設定し,RTKLIBとAntcomアンテナを用いた結果,Fix率は93.3$\%$と高く保たれました.
また,誤差の方向性として,東西よりも南北方向に大きな揺れが観察されました.これは衛星配置による影響と考えられます.
衛星数と配置による測位誤差の変化
RTK測位では,使用する衛星数とその幾何学的配置が測位精度に直接関係します.7個の衛星から1個ずつ排除していった実験では,6個以上であれば公称精度内に収まりましたが,5個以下では誤差が顕著に増加しました.
また,衛星配置により測位誤差の分布が予測可能であることも示されました.共分散楕円を用いて誤差の方向性と大きさを解析できます.
RTK測位は,周囲の環境条件や衛星状態に依存する面もありますが,適切な衛星選択と信号処理により,困難な環境下でもcm級の精度が得られることが確認されています.
RTK測位とは何か
RTK(Real Time Kinematic)測位とは,GNSSを用いた高精度な位置測定方式の1つです.移動局(ローバー)と固定局(基地局)との間で位相情報をリアルタイムにやり取りすることで,cm級の精度を実現します.
基本原理は,衛星からの搬送波信号の位相を用いた測距です.通常のGNSSではコード測位により数mの誤差が生じますが,搬送波の位相情報を用いれば波長レベル(約20cm)まで精度が向上し,さらに基地局との相対測定により精度を数cmにまで高めることができます.
RTK測位の構成要素と精度要因
RTK測位の主な構成は次のとおりです.
- 基地局:既知の座標でGNSS信号を受信し,補正情報を生成する
- 移動局:基地局からの補正情報を用いて自己位置を高精度に推定する
- 通信リンク:基地局から移動局へ補正データをリアルタイムで送信する
精度に影響を与える要因は複数あります.
- 衛星数と配置:衛星が多く,空間的に広がっていると測位精度が高まる
- マルチパス:反射波の影響により誤差が発生しやすい
- 電離層・対流圏:信号遅延の変動による影響
- SNR(受信信号強度):感度が低い衛星は誤差を増やす要因となる
これらを克服するため,RTKではFixとFloatという2つの測位状態が定義されます.Fix状態では整数アンビギュイティの解決が完了し,cm級の精度が得られます.Float状態では準高精度(デシm級)です.
RTKの運用と応用範囲
RTKはドローン,農業機械,自動運転,測量など多くの分野で活用されています.移動体があらかじめ設置された基地局の近傍にあれば,リアルタイムに高精度の位置情報を得ることができます.さらに,みちびき衛星が配信するCLAS補正信号を利用すれば,準天頂衛星システムによる広域な補正も可能です.
今後は,より簡易にRTK環境を構築できるよう,受信機や補正信号の標準化が進むことで,一般用途にも広がると期待されています. 〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 1993年 西松建設(株)技術研究所研究員
- 2000年 茨城工業高等専門学校助手
- 2002年 博士(工学)「リアルタイム・キネマティックGPS測位の建設工事における応用に関する研究」,主に建設業における高精度衛星測位の応用において,1周波RTK測位の普及等の低価格化,遮へいやマルチパスの多い環境におけるセンチメータ級測位の応用,誤差補正法に取り組む.RTK-GPSの誤差補正法等で2001年日本測量協会測量技術奨励賞,地下埋設物可視化システムの開発で2019年土木学会技術開発賞を受賞
- 2020年 静岡大学土木情報学研究所客員教授
- 詳細
著書
- 高精度衛星測位の性能と応用事例,日本ロボット学会誌,37(7),pp.15~20,2019.7.
- 衛星測位を利用した土壌汚染状況調査における調査地点設定システム,測量,65(12),pp.14-17,2015.12.
- 電波の悪い森の中でも美軌道測位,トランジスタ技術2019年10月号,別冊,pp.2~3,CQ出版社.
- 最新RTKレシーバFi×性能対決,トランジスタ技術2019年2月号,pp.41~45,CQ出版社.
- センチ・メートル測位RTK法の基礎と実力,トランジスタ技術2016年2月号,pp.66~79,CQ出版社.
参考文献
- [VOD/KIT]RTKポータブル・センチ・メートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/Pi400 KIT]SLAMロボット&ラズパイ付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]確率・統計処理&真値推定!自動運転時代のカルマン・フィルタ入門,ZEPエンジニアリング株式会社.