2つの測位解 FloatとFix
単独高精度測位 みちびき補正信号CLAS入門
RTK測位の2つの解:FloatとFix
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図1 RTK測位の初期段階の搬送波の波数が不明な状態で得られる測位解がFloat解.精度は数mから20cm程度.波数が判明するとFix解に到達する.精度は数cm.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[著]岡本 修 詳細:[VOD]センチメートル測位RTKのしくみと開発技術 |
RTK(リアルタイム・キネマティック)測位では,高精度な位置情報を得るために,衛星信号の搬送波位相を利用します.この手法において中心となるのが「Float解」と「Fix解」という2つの測位解です.
測位の初期段階では,衛星信号の搬送波の波数(整数値バイアス)が不明なため,正確な距離を求めることができません.この状態で得られる測位解が「Float解」です.精度はおおよそ数mから20cm程度になります.
その後,衛星からの信号や環境条件をもとに,この波数を絞り込み,正しい整数値を決定することで「Fix解」に到達します.この解では数cm単位の測位精度が得られます.
収束のしくみとマルチバンドの利点
測位精度の向上には,信号の「目盛りの細かさ」が重要です.たとえば,単独測位ではC/Aコード(1.023MHz)を使い,荒い目盛りでの測距精度は300m程度です.一方,RTK法では搬送波(1.5GHz付近)を用いることで,精度は2mm程度にまで高まります.
1周波の受信機では,GNSSの衛星数を増やすことで収束を早めます.対して,2周波以上のマルチバンド受信機では,異なる波長の信号を組み合わせて波数の候補を減らし,より高速にFix解へ到達できます.
ミスFixと長距離基準局の課題
Fix解に見えても,誤った波数に収束する「ミスFix」という状態があります.これは短時間では判別が難しく,実際には誤った位置を示しているため,応用には注意が必要です.
また,基準局との距離(基線長)が長くなると,正確なFix解を得るのが難しくなります.たとえば70kmまではFix可能とされる機種もありますが,距離に比例してばらつきが大きくなり,100kmではおよそ10cmの誤差が発生します.
まとめ
RTK測位におけるFloat解とFix解の理解は,高精度測位の運用に不可欠です.マルチバンド受信機やGNSSの活用により,より早く,正確なFix解が得られるようになっていますが,ミスFixや基線長の影響には十分な配慮が必要です.
測位解の根本的な違い
RTK測位での「Float解」と「Fix解」の違いは,搬送波の整数波数が確定しているか否かにあります.RTKでは,搬送波の波長(たとえば$L_1$で約20cm)を複数カウントして距離を求めるしくみです.この波数がわからなければ,測位精度は低下します.
測位開始直後では,この波数が不明であり,受信信号から波数を推定している段階にあるため,精度が不安定です.この状態がFloat解であり,数mから20cm程度のばらつきがあります.
時間が経過し,十分な信号情報を得て波数が確定すると,Fix解になります.このとき,測位精度は数cmに向上します.すなわち,Fix解の成立は「整数アンビギュイティの解決」を意味します.
Fixに至るまでのプロセス
Fix解の取得には,いくつかの技術的工夫が用いられています.
- 複数周波の組み合わせにより,波長の異なる「物差し」で距離を測る
- マルチGNSS対応により,利用可能な衛星数を増加させる
- 初期化アルゴリズムで波数の候補を効率的に絞り込む
これらの技術により,収束時間が短縮され,数十秒から数分でFix解が得られるようになっています.
ミスFixと信頼性の限界
Fix解に見えても,実際には誤った波数で固定された「ミスFix」という状態があります.ミスFixは通常のFixと同様に見えるため,短時間での検出が難しく,特に基準局との距離が長いと発生率が高くなります.
たとえば,70km以上の長距離基線では,受信機の性能によってはFix解が得られても,数cmから10cm程度の誤差が発生します 〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 1993年 西松建設(株)技術研究所研究員
- 2000年 茨城工業高等専門学校助手
- 2002年 博士(工学)「リアルタイム・キネマティックGPS測位の建設工事における応用に関する研究」,主に建設業における高精度衛星測位の応用において,1周波RTK測位の普及等の低価格化,遮へいやマルチパスの多い環境におけるセンチメータ級測位の応用,誤差補正法に取り組む.RTK-GPSの誤差補正法等で2001年日本測量協会測量技術奨励賞,地下埋設物可視化システムの開発で2019年土木学会技術開発賞を受賞
- 2020年 静岡大学土木情報学研究所客員教授
- 詳細
著書
- 高精度衛星測位の性能と応用事例,日本ロボット学会誌,37(7),pp.15~20,2019.7.
- 衛星測位を利用した土壌汚染状況調査における調査地点設定システム,測量,65(12),pp.14-17,2015.12.
- 電波の悪い森の中でも美軌道測位,トランジスタ技術2019年10月号,別冊,pp.2~3,CQ出版社.
- 最新RTKレシーバFi×性能対決,トランジスタ技術2019年2月号,pp.41~45,CQ出版社.
- センチ・メートル測位RTK法の基礎と実力,トランジスタ技術2016年2月号,pp.66~79,CQ出版社.
参考文献
- [VOD/KIT]RTKポータブル・センチ・メートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/Pi400 KIT]SLAMロボット&ラズパイ付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD]確率・統計処理&真値推定!自動運転時代のカルマン・フィルタ入門,ZEPエンジニアリング株式会社.