CLASとRTKの測定精度比べ


単独高精度測位 みちびき補正信号CLAS入門

高精度測位の新たな選択肢:CLASとRTKの比較

図1 2021年 マゼランシステムズジャパン社のCLAS対応受信機で定点,移動観測が行われた.オープン・スカイの環境下で,水平RMS 36mm,Fix率 100%という結果が得られた.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[著]岡本 修
詳細[VOD]センチメートル測位RTKのしくみと開発技術

みちびき衛星システムのCLAS(Centimeter Level Augmentation Service)は,日本国内で提供される準天頂衛星からの補強信号L6Dを活用した高精度測位手法です.RTK(Real-Time Kinematic)と比較して,基地局を必要としない点が特徴です.

2021年,マゼランシステムズジャパン社のCLAS対応受信機を用いて定点および移動観測が行われました.オープン・スカイの環境下では,CLASによる測位精度は水平RMSで36mmを記録し,Fix率も100%という良好な結果が得られました.

障害物環境下におけるCLASの性能

構造物や樹木の近くといった測位環境が悪化する条件下でも,CLASは精度を大きく損なうことなく40mm程度の精度を維持しました.これは,補強対象衛星が最大17衛星と多く,障害によって一部の衛星が遮られても他衛星を選択できるためと考えられます.

一方で,軒下など衛星の見通しが完全に失われる場所では,Fixできず,単独測位に落ちる場面も観察されました.このような環境では,RTKのほうが安定して測位できる傾向があります.

移動体観測による再現性と実用性

スライド・レール上での移動体観測では,CLASは約37mmのぶれ幅でトレース性能を示し,再現性の高い結果が得られました.ただし,軌道が木の下に差しかかると,Fixが失われ,フロートや単独測位に移行するケースもあります.

CLASは,RTKに比べて基地局を必要としない手軽さがありますが,環境依存性やFix性能には課題もあります.用途に応じた使いわけが求められます.

CLAS(PPP-RTK)の原理と特徴

CLASは,日本の準天頂衛星システム(QZSS)から提供されるL6D信号を用いたcm級の補強測位サービスです.CLASの中核はPPP-RTK(Precise Point Positioning - Real Time Kinematic)であり,精密な衛星軌道情報,クロック誤差,電離層補正情報などを含む補強データが,QZSS経由で全国に放送されています.

一般的なPPPでは収束時間が長く,動的環境での利用は難しいとされていましたが,CLASはRTKの特徴を取り入れることで,収束時間の短縮と高精度を両立しています.

RTKとの違いと利点・制約

  1. 基地局不要:RTKは固定局からの補正が必要だが,CLASは衛星からの補正信号を直接受信
  2. 全国一律の補正:地方でも補正サービスを利用可能
  3. 都市部での信頼性:衛星遮蔽がある環境ではFix率が下がりやすい
  4. 収束時間:数分でFix可能だが,RTKよりはやや遅れる傾向
  5. 受信機の対応:L6Dに対応したアンテナと受信機が必要

実運用への課題と今後

CLASは単独高精度測位を可能にする画期的な手法ですが,樹木や建物に囲まれた環境ではFix率が下がる点に注意が必要です.都市部や軒下などGNSS衛星が遮られる環境では,RTKや補助的な測位技術との併用が望ましいです.

今後,CLASの補強対象衛星の拡大や受信機の小型・低価格化が進めば,ドローンや農業機械,モバイル端末などでの実用も広がっていくと予想されます. 〈著:ZEPマガジン〉

動画を見る,または記事を読む

著者紹介

  • 1993年 西松建設(株)技術研究所研究員
  • 2000年 茨城工業高等専門学校助手
  • 2002年 博士(工学)「リアルタイム・キネマティックGPS測位の建設工事における応用に関する研究」,主に建設業における高精度衛星測位の応用において,1周波RTK測位の普及等の低価格化,遮へいやマルチパスの多い環境におけるセンチメータ級測位の応用,誤差補正法に取り組む.RTK-GPSの誤差補正法等で2001年日本測量協会測量技術奨励賞,地下埋設物可視化システムの開発で2019年土木学会技術開発賞を受賞
  • 2020年 静岡大学土木情報学研究所客員教授
  • 詳細

著書

  1. 高精度衛星測位の性能と応用事例,日本ロボット学会誌,37(7),pp.15~20,2019.7.
  2. 衛星測位を利用した土壌汚染状況調査における調査地点設定システム,測量,65(12),pp.14-17,2015.12.
  3. 電波の悪い森の中でも美軌道測位,トランジスタ技術2019年10月号,別冊,pp.2~3,CQ出版社.
  4. 最新RTKレシーバFi×性能対決,トランジスタ技術2019年2月号,pp.41~45,CQ出版社.
  5. センチ・メートル測位RTK法の基礎と実力,トランジスタ技術2016年2月号,pp.66~79,CQ出版社.

参考文献

  1. [VOD/KIT]RTKポータブル・センチ・メートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/Pi400 KIT]SLAMロボット&ラズパイ付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]確率・統計処理&真値推定!自動運転時代のカルマン・フィルタ入門,ZEPエンジニアリング株式会社.