ソフトウェア無線と通信の同期


SyncWordとBarker Codeの役割


雑音の中から送信データを拾い上げる

図1 ノイズの影響を受けやすい無線通信において,正確にデータを受信するためには,フレームの冒頭に配置される“SyncWord”にどのような符号を使うかが重要.[著・提供]加藤 隆志.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は[Webinar/KIT/data]Arm M4/M7/DSP×500MHz!STM32H7ハイスペック計測通信Module開発

ソフトウェア無線と通信の同期

SyncWordとBarker Codeの役割

ソフトウェア無線の通信において,送信と受信の同期は非常に重要な要素です.無線通信の信号はノイズなどの影響を受けやすく,正確にデータを受信するためには,目的の信号を確実に検出する必要があります.

そのため,SyncWord(シンク・ワード)が使用されます.SyncWordとは,通信フレームの冒頭に配置され,送信されたデータが正しい信号であることを認識するための特別なビット列です.

SyncWordにはBarker Codeのような疑似相関の小さいパターンが理想的です.Barker Codeはそのユニークな構造により,畳み込み演算を用いた相関処理で高い検出精度を発揮します.これは雑音環境下での通信の信頼性を高めるために不可欠です.

Barker Codeを用いた同期のしくみ

SyncWordとしてのBarker Codeは,以下のような特性をもちます.

  1. 高い自己相関特性:信号がノイズの中で多少乱れていても,目標信号を検出できる
  2. 短い符号長でも優れた性能:Barker Codeの符号長は最大でも13ビットであり,効率がよい

Barker Codeを使用する場合,信号のビット列は例えば`+1,-1,+1,+1,-1`のように符号反転を伴って処理されます.この符号変換によって,相関演算でのピーク検出が強調されます.具体的には,受信側で受信信号とSyncWordの畳み込み演算を行い,得られる値が最大になった位置をもとに同期を確立します.

SyncWordとノイズ環境での通信精度

SyncWordが正確に機能するためには,以下の点が重要です.

  1. 相関演算の工夫
  2. SyncWordのビット列において,0は$-1$,1はそのまま$+1$として扱います.この変換により,相関演算の際にノイズの影響を抑えながら信号を正確に検出できます.例えば,信号`0100`(4)や`1011`(B)をこの規則にしたがって変換すると,`-1,+1,-1,-1`になります.このように符号の一致/不一致に基づいて相関スコアを計算することで,目的のSyncWordを検出するのです.
  3. 雑音耐性とBarker Code
  4. Barker Codeは,ほかの信号と重なったりノイズの影響を受けても,自己相関のピークが際立つため,誤検出を最小限に抑えます. 例えば,Barker Codeで定義されたSyncWordが受信されると,その部分の相関スコアが高くなり,これが同期の確立に役立ちます.特に,ソフトウェア無線では信号の一部が欠落したり崩れた場合でも,Barker Codeによって同期を取り戻せることが利点です.
  5. 通信フレーム構造の工夫
  6. SyncWordに続くペイロード(送信データ部分)は,通信の柔軟性を高めるために長さが可変になる場合があります.しかし,開発初期の段階では,解析を簡単にするため,あえて特定の文字列(例えば「ZEP」)を固定長で送信することがあります.このような固定化により,通信処理のデバッグが容易になります.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1990年 無線通信機器メーカで設計開発.その後,計測器メーカでRF測定機器,半導体試験装置の設計開発
  • 2017年 フリーランスエンジニアとして独立,無線通信機器やSDR機器の受託開発
  • 2019年 株式会社ラジアンとして法人化,現在に至る

著書

  1. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [KIT]実験用800M~6GHz 広帯域90°ハイブリッド,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 [Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験],ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. 超長距離無線LoRaからローカル5Gまで!GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. 電波解読マシン Piラジオの製作,トランジスタ技術,2017年1月号 特集,CQ出版社.
  7. 電波超解像!スペクトラムプロセッサSDR誕生,トランジスタ技術,2018年9月号 特集,CQ出版社.
  8. 夢のRFコンピュータ・トランシーバ製作,トランジスタ技術,2017年8月号 連載,CQ出版社.
  9. 信号処理プログラミングで操るソフトウェア無線機&計測機,2019年春号,トランジスタ技術SPECIAL No.146,CQ出版社.

参考文献

  1. Arm M4/M7/DSP×500MHz!STM32H7ハイスペック計測通信Module開発,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. 高感度受信!ソフトウェア無線機の心臓部“Root-Raised Cosine Filter”の設計,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD]MATLAB/Simulink×FPGAで作るUSBスペクトラム・アナライザ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [VOD/KIT]初めてのソフトウェア無線&信号処理プログラミング 基礎編/応用編,ZEPエンジニアリング株式会社.
  7. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  8. [VOD]Pythonで学ぶ やりなおし数学塾1【微分・積分】,ZEPエンジニアリング株式会社.
  9. [VOD]Pythonで学ぶ やりなおし数学塾2【フーリエ解析】,ZEPエンジニアリング株式会社.