[KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ MkⅡ

1台で送受信実験!RF帯域 24G~44GHz,IF帯域 1G~6GHzの$I/Q$ディジタル変復調器



写真1 1台でローカル5Gのミリ波無線通信の実験が可能なミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ MkⅡ z-mmcon2(ミリコン・ツー) (mz-mmcon1の$C/N$を大幅に改善した後継機.開発:株式会社ラジアン)

超低$C/N$!28GHz帯ローカル5Gから24GHz帯アマチュア無線の挑戦的実験局に

写真1に示すのは,1台でミリ波を使ったディジタル無線通信が可能な$I/Q$変調&周波数コンバータ“z-mmcon2”(ミリコン・ツー)です.ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータmz-mmcon1の後継機です.改良点は後述の「従来機 ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ mz-mmcon1からの改善点」を参照ください.

用途

z-mmcon2は,28GHz帯の超広帯域ローカル5G(後述のコラム3参照)から24GHz帯アマチュア無線まで幅広く利用できます.アマチュア実験局利用に関しては,JARLのウェブサイト(https://www.jarl.org/index.html)の「アマチュア無線を楽しむための資格」を参照ください.

例えば,次のような目的に利用できるでしょう.詳しくはご自身で調査,検討してください.

  1. 24GHz帯アマチュア無線データ通信(許可される変調形式や帯域幅は調査要)
  2. 28GHz帯ローカル5G高速データ通信(Gbps以上)
  3. フェーズドアレイ・アンテナを使った39GHz帯5G実験局

動作確認に必要な機器

下記の機器があれば,ミリ波を使った最低限の動作確認が可能です.

  1. z-mmcon2本体(写真1
  2. DC6V,2A電源 または付属のACアダプタ
  3. USB-B to USB-A ケーブル(付属)
  4. ミリ波用同軸ケーブル(付属していません).例:89762-1542(2.92mm,Molex)
    ※SMAはお勧めしません
  5. Tera Term(フリー)などのターミナル・ソフトがインストールされたパソコン

スペック

  1. 送信周波数範囲:24.0G~44.0GHz
  2. 送信出力範囲:+10~-29dBm(信号の条件 CW)
  3. 送信ゲイン範囲:+20~-19dB($I/Q$動作時)
  4. 受信周波数範囲:24.0G~44.0GHz
  5. 受信入力範囲-:10dBm以下(信号の条件 CW)
  6. 受信ゲイン範囲:+12~-9dB($I/Q$動作時)
  7. 受信雑音指数:10dB以下
  8. ベースバンド周波数範囲:DC~100kHz(内蔵D-Aコンバータ,外部アクセス不可)
  9. ベースバンド・レベル範囲:0dBm以下(内蔵D-Aコンバータ,外部アクセス不可)
  10. IF周波数範囲:1G~6GHz(本体背面のSMA端子)
  11. IFレベル範囲:0dBm以下(本体背面のSMA端子)
  12. 電源:付属のACアダプタ(DC6V,2A)
  13. 消費電流:1.5A(通常動作時)
  14. 基板サイズ:128×93×1.6mm(基材はRogers4350B)
  15. ケース・サイズ:$W$=140mm $D$=129mm $H$=40mm(フランジ含む)

ブロック図

図1 z-mmcon2のブロック図

キー・デバイスのデータシート

  1. Cortex-M4マイコン STM32F446
  2. 広帯域マイクロ波アップ・コンバータ ADMV1013
  3. 広帯域マイクロ波ダウン・コンバータ ADMV1014
  4. VCO内蔵マイクロ波広帯域シンセサイザ ADF4372
  5. 超低雑音・高$PSRR$ LDOリニア・レギュレータ LT3045EDD

1台でミリ波無線通信の実験が始められる

z-mmcon2は,24G~44GHzのRF信号を 1G~6GHzのIF信号に変換できる(周波数アップと周波数ダウン)$I/Q$ディジタル変復調器です.STM32マイコンを搭載し,これ1台で,ミリ波を使ったディジタル送受信の実験が可能です(図2).

ミリ波対応アンテナ mz-mmant1や実験用27.5G-29.5GHz バンド・パス・フィルタmz-mmbpf1と組み合わせて,離れた2箇所でのワイヤレス通信実験も可能です(写真2).

図2 z-mmcon2の使い方例:スタンドアロンのミリ波通信実験システム(参考記事:5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験
(a)28GHzミリ波を送受信できるアンテナ mz-mmant1) (b)中心周波数28GHzのBPF mz-mmbpf1) (c)シングルの信号を$I/Q$に分離したり,$I/Q$信号を合成してシングルの信号に合成する90°ハイブリッド mz-qhybrid)
写真2 28GHz帯のミリ波の伝搬実験を可能にするキット類(参考記事:5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 Vol.8 初めての28GHzミリ波伝搬実験
中心周波数28GHzのBPFはRF送信出力(Tx)の不要輻射を減らし,RF受信入力(Rx)では不要な信号によって発生するノイズを抑えて感度を向上させる働きがある.90°ハイブリッドにIF信号を入力すると,I信号とQ信号に分離される.逆にI/Q信号を入力すると合成されて,レベルが+3dB増したIF信号が出力される.参考記事:5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 Vol.9 帯域優先?精度優先?2種類の周波数変換方式

従来機 ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ mz-mmcon1からの改善点

本器“z-mmcon2”(写真1)は,従来機のmz-mmcon1写真3図3)から,下記の点が改良されています.

  1. 周波数範囲の拡大(27GHz~43GHz → 24GHz~44GHz)
  2. PLLシンセサイザICの変更(ADF4372)に伴う$C/N$の大幅改善
  3. 制御をWindowsアプリからターミナルに変更(FTDIドライバに起因するトラブル回避)
  4. 外部機器との接続をIF(1G~6GHz)だけに変更
  5. 放熱ケース採用とファンレス化,ケースの大型化
  6. USBマイクロをUSB-Bに変更(コネクタ破壊対策)
写真3 従来機 mz-mmcon1の外観
図3 従来機 mz-mmcon1のブロック図

コラム1 実際のミリ波ローカル5Gの通信実験のようす

写真4は,多チャネル同時送受信が必要なローカル5G基地局を想定して,リアルタイム動画を$28\mathrm{GHz}$を使って伝送したときの実験のようすです.

写真4 ローカル5G基地局を想定したリアルタイム動画伝送中

コラム2 動画で見るローカル5G/6G開発の実際と始め方

(a)東京都立大学 ローカル5G環境の概要と活用の方向性 (b)ローカル5Gおよび6Gに向けたMIMOハードウェア装置と評価法 (c)ローカル5G基地局のハードウェア開発
(d)27G~43GHzミリ波5G用UP/DOWNコンバータ Radiun-mmcon1 (e)ミリ波5Gアンテナ開発の現状

コラム3 5Gから自営用のバンドが割り当てられた

5Gには次の3つの周波数バンドが割り当てられています(図4).

  1. $3.6\mathrm{G}~4.1\mathrm{GHz}$(サブ$6\mathrm{GHz}$帯)
  2. $4.5\mathrm{G}~5.0\mathrm{GHz}$(サブ$6\mathrm{GHz}$帯)
  3. $26.6\mathrm{G}~29.5\mathrm{GHz}$(ミリ波帯)
図4 次世代通信規格 5Gの周波数バンドの割り当て

5Gには,従来の4Gにはない2つの特徴があります.

1つは,帯域が$40\mathrm{MHz}$から$100\mathrm{MHz}$に広くなったことです.ミリ波帯を利用する5G(ミリ波5G)では,$400\mathrm{MHz}$もの帯域が割り当てられています.これだけの帯域があれば,4K/8K映像の高速撮影映像システムや臨場感あふれるVRシステムを実現できます.

もう1つ注目すべき特徴があります.NTTやKDDIなどのいわゆるキャリア以外の自営企業が独自に通信回線を構築できる「ローカル5G用バンド」が割り当てられた点です.現在利用できる周波数バンドは一部ですが,今後,工場や農場などでIT化を進めたい機関や企業の実証実験が増えてくることでしょう.