方位精度0.4°!cm測位!高精度GNSSコンパス開発


人力飛行機に搭載!慣性航法装置 INS×GNSSの複合航法装置と同等



GNSSコンパス×INSで累積する誤差を補正

図1 キネマティックGNSSによる人力飛行機のフライト軌跡・姿勢角の計測のようす.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[著・提供]樋田 啓
詳細LiDAR×RTK×IMUフュージョン!自動運転&SLAMロボット開発 要点100

1.キネマティックGNSSとは?

キネマティックGNSS(Global Navigation Satellite System)は,衛星からの信号をリアルタイムで解析し,数センチ・メートル単位の位置情報を取得する技術です.

この高精度測位は,RTK(Real-Time Kinematic)技術を活用することで実現され,測量や農業,ドローンの自動制御など幅広い分野で応用されています.

農業機械の自動運転では,複数のGNSS受信機を用いて正確な位置と経路を維持することが可能です.

RTKでは,基準局(固定されたGNSS受信機)が誤差情報を移動局(動いている受信機)に送信します.これにより,単独測位の際に発生する誤差要因(電離層の揺らぎや衛星時計のずれ)を補正し,サブメートル精度から数センチ・メートル精度へ向上させます.これが,キネマティックGNSSの大きな特徴です.

2.GNSSコンパスのしくみと応用

GNSSコンパスは,2台以上のGNSSアンテナを使用して,物体の方位角や姿勢角を測定する技術です.

アンテナを翼端に取り付けた人力飛行機では,飛行中の姿勢や進行方向を高精度に把握できます.アンテナ間の距離がわずか数メートルでも,GNSSコンパスは方位角精度0.4°の精密な姿勢情報を提供します.

この技術は,INS(Inertial Navigation System:慣性航法装置)との組み合わせでも注目されています.INSはジャイロ・センサや加速度センサを用いて物体の位置や姿勢を計算しますが,時間とともに累積する誤差が課題になります.GNSSコンパスとの併用により,INSの誤差を補正し,姿勢測定の信頼性が向上します.

実際の実験では,GNSSコンパスとINSの測定結果が0.4°の範囲で一致することが確認されました.

3. 実際の応用例

人力飛行機でのGNSSモジュール活用

今回の開発では,安価で高精度なGNSSモジュール「u-blox ZED-F9P」(約2万円)を人力飛行機に搭載しました.

このモジュールはRTK対応であり,キネマティック測位の精度向上に大きく寄与します.飛行中の姿勢角の測定にはGNSSコンパスを用い,正確な進行方向や傾斜角をリアルタイムで取得できました.

人力飛行機での活用例からも,キネマティックGNSSの技術は,コスト・パフォーマンスに優れた高精度測位を実現し,今後の産業用途での発展が期待されます.特に,RTK方式のGNSSコンパスによる姿勢計測は,自動運転や航空分野における応用が進むでしょう.

RTKとGNSSコンパスの優位性

RTK(Real-Time Kinematic)は,GNSS測位においてリアルタイムで位置情報を補正する技術です.

RTKを用いたGNSSシステムでは,基準局と移動局間の距離を使って誤差を補正するため,誤差が蓄積しにくく,数センチ・メートルの高精度な位置情報が得られます.

一方,GNSSコンパスは,2つ以上のGNSSアンテナを活用し,方位角の計測を行います.一般的な磁気コンパスが地磁気の影響を受けやすいのに対し,GNSSコンパスは環境に依存しない安定した測定が可能です.特に,自動運転車や航空機など,正確な姿勢計測が求められる場面で有用です.

GNSSコンパスの利点は,システムが簡単である点です.アンテナ間の距離が明確であれば,複雑なキャリブレーションを必要とせず,安定した姿勢情報を取得できます.

RTK技術と組み合わせることで,位置と姿勢の両方を高精度で測定できるため,より信頼性の高い複合航法が可能になります.INSとの併用によって,GNSS信号が途絶した場合でも,INSが一時的な姿勢推定を補完することができ,システム全体の安定性が向上します.

このように,RTKとGNSSコンパスを組み合わせた高精度測位技術は,航空・農業・自動車など多くの産業分野で応用が期待されています.特に,GNSSの進化に伴い,より小型・低価格なモジュールの普及が進むことで,さらなる実用化が進むでしょう.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 2013年 東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系 博士課程修了
  • 学生時代から現在まで,人力飛行機の電子装備の設計・製作・運用を行う

著書

  1. PSoCを使用したプロトン磁力計,トランジスタ技術2009年1月号,CQ出版社.
  2. 舞いあがれ人力飛行機(連載) Interface 2023年2月号~2024年5月号,CQ出版社.

参考文献

  1. LiDAR×RTK×IMUフュージョン!自動運転&SLAMロボット開発 要点100,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/KIT]RTKポータブル・センチメートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]SLAMロボット付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. "[VOD/Pi KIT]MATLAB/Simulink×ラズパイで学ぶロボット制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/Pi KIT]ラズパイ×Pythonで動かして学ぶモータ制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.