車種を複数同時回答!一般物体検出モデル“YOLO”


物体の種類と画面の位置を高速推定

物体検出ライブラリ“YOLO”の基礎とAIカメラ開発

図1 物体の種類と画面の位置を高速推定するAIモデル“YOLO”利用のすすめ.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は,VOD/KIT]人工知能カメラM5StickVで作って学ぶ画像解析AI開発入門

車の写真をカメラで写すと位置と種類が表示される

YOLO(You Only Look Once)は,リアルタイムで物体を検出し,その位置と分類を同時に行う深層学習モデルです.

YOLOの大きな特徴は,従来の物体検出モデルに比べて非常に高速であることです.画像全体を一度に処理するため,画面上の複数の物体を同時に検出し,その位置情報を出力します.これにより,車や人,動物などの複雑なシーンにおいても瞬時に物体の検出が可能になります.

YOLOは,深層学習フレームワーク(TensorFlow,PyTorchなど)で構築されており,特定のデータセットを使って訓練することで,多種多様な物体を識別できます.例えば,犬と猫の分類器を作成する場合,数千枚の犬猫画像を学習させ,その結果として,未学習の犬や猫の画像を正確に識別できるモデルが完成します.

AIカメラ開発とYOLOの応用

AIカメラ開発において,YOLOは物体検出の中核を成しています.

例えば,M5StickVという小型カメラデバイスを用いることで,犬と猫の画像をリアルタイムで認識するAIカメラを開発できます.まず,M5StickVのカメラを用いて犬と猫の学習用データを撮影し,クラウドプラットフォームであるV-Trainingにアップロードします.このプラットフォーム上でモデルが学習され,その後M5StickVにインストールすることで,AIカメラが動作します.

AIカメラの応用範囲は非常に広く,家庭用の監視システムや製造ラインの品質管理,自動運転車の物体検知など,多くの場面で活用されています.例えば,家庭の防犯カメラとして使う場合,YOLOを搭載したAIカメラが侵入者を即座に認識し,アラートを出すことが可能です.

物体検出モデルのカスタマイズと実用例

YOLOは,公開されている学習済みモデルをそのまま利用することも可能ですが,特定の用途に最適化するために再学習を行うことが一般的です.

例えば,V-Trainingを利用して,M5StickVで集めた犬や猫の画像を再学習させることで,オリジナルのモデルを作成できます.このモデルは,特定のシーンに適した物体検出を実現し,精度を向上させることができます.

M5StickVで作成したモデルを利用すれば,農業や工業などの分野でも実用的なAIカメラを簡単に構築できます.例えば,果物の分類モデルを作成し,イチゴやバナナなどを自動的に識別するシステムを構築することが可能です.

YOLOとAIカメラの未来

YOLOとAIカメラの進化

YOLOは物体検出技術の中でも特にリアルタイム処理に優れており,AIカメラの心臓部として大きな役割を果たしています.

特に,エッジ・デバイスでの利用が進むことで,AIカメラはさらに多様な分野での応用が期待されています.エッジ・デバイスとは,クラウドではなく現場で直接データを処理するシステムのことで,これにより,遅延を最小限に抑え,迅速な応答が可能になります.

YOLOのような軽量な物体検出モデルは,こうしたエッジ・デバイスに適しており,低消費電力での処理を可能にします.例えば,無人の農場や工場など,インターネット接続が不安定な場所でも,AIカメラが独立して動作し,現場でリアルタイムな監視や管理を行うことができます.

カスタマイズ可能なAIカメラの普及

AIカメラは,今後さらにカスタマイズ可能なシステムとして進化することが予想されます.現在でも,V-Trainingのようなツールを用いれば,特定のニーズに合わせたモデルを簡単に構築することが可能です.例えば,ペットの監視カメラとして,犬や猫だけでなく,特定の行動や物体を検出するAIカメラを作成できます.

このようなカスタマイズの可能性は,個人や小規模なビジネスでもAI技術を活用できるチャンスを広げています.さらに,YOLOの性能向上により,より少ないデータで高精度なモデルを作成できるようになれば,AIカメラはますます身近な技術になるでしょう.

AIカメラの未来と期待

AIカメラは,防犯や監視だけでなく,医療や教育,さらにはエンターテインメント分野にまで拡大していく可能性があります.例えば,医療分野では,手術中の映像をリアルタイムで解析し,医師に必要な情報を提供するシステムが開発されています.また,教育分野では,学生の行動や反応を分析し,個別指導に役立てることができます.〈ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 株式会社クレスコ入社後,銀行向けシステムなど数多の開発にリード・エンジニアとして従事.後に自社ソリューションとなる統合認証システムの基礎を独力で開発するなど,アイデアと技術でクレスコを牽引する.技術研究所での機械学習研究を経て,人工知能を強みとする部門に異動.現在はテクニカルエバンジェリストとして企業が持つ業務課題へのAI適用に関するコンサルティング,機械学習に関する技術支援を行う一方,自ら研究テーマを持ち共同研究,実験システムの構築も担当.「SoftwareDesign」「やってみよう!機械学習」(技術評論社),「日経ソフトウェア」「AIプログラマになれる本」(日経BP)への記事寄稿,会津大学,はこだて未来大学,琉球大学,早稲田大学のほかWatson SummitやMicrosoftでの講演等,社外でも精力的に活動中

著書

  1. ラズパイ+USB SDRで作るFlightradar24 Businessアカウント・フィーダ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/KIT]ラズベリー・パイで学ぶエッジAIプログラミング入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]世界の航空機を同時追跡!Flightradar24 ラズパイ・キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/KIT]人工知能カメラM5StickVで作って学ぶ画像解析AI開発入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. いろんなことを試して学ぶ! Pythonプログラミング,2021年,日経BP.
  6. エッジAIプログラミング M5StickV 活用編,日経ソフトウェア2020年11月号,日経BP.
  7. エッジAIプログラミング M5StickV 準備編,日経ソフトウェア2020年7月号,日経BP.
  8. Kaggleに参戦しよう(連載),日経ソフトウェア2020年1月号,日経BP.
  9. Kaggleに参戦しよう(連載),日経ソフトウェア2019年9月号,日経BP.
  10. Kaggleに参戦しよう(連載),日経ソフトウェア2019年7月号,日経BP.
  11. AIプログラマになれる本,2019年,日経BP.
  12. やってみよう! 機械学習 第2章 機械学習の始め方,2019年,技術評論社.
  13. 人工知能で画像生成 応用編,日経ソフトウェア2019年1月号,日経BP.
  14. 人工知能で画像生成 基本編,日経ソフトウェア2018年11月号,日経BP.
  15. 自分で構築するか,APIで機能を使うか 機械学習の始め方,Software Design2018年4月号,技術評論社.

参考文献

  1. [VOD/Pi3A KIT]ラズパイ・キットで学ぶLinux I/Oボードの作り方・探し方・動かし方,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/Pi KIT]ラズベリー・パイで学ぶLinux&Pythonプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/PiZero KIT]Python×ラズパイで初めての量子コンピュータ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/Pi400 KIT]SLAMロボット&ラズパイ付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/Pi KIT]ラズパイ×Pythonで動かして学ぶモータ制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.