cm測位のしくみ


相対測位による誤差の相殺メカニズム

cm級測位のための相対測位

図1 2局間の信号の違いを利用して共通の誤差成分を相殺する相対測位は,クロック,軌道,大気の誤差を打ち消すことで,cm級の精度が実現する技術.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]樋田 啓
詳細:自動運転&SLAMロボット開発 要点100【セッション5】cm測位「キネマティックGNSS」の始め方

cm級の精度で測位するためには,単独のGNSS受信機だけでは限界があります.そこで活用されるのが,相対測位という手法です.これは,2つの受信局を使って,測位誤差を相殺する技術です.1つは固定された基準局,もう1つは移動する移動局です.両者の距離は数km程度であることが多いです.

GPS衛星は地上から約20,000 km上空を周回しています.衛星から送信される信号は,移動局にも基準局にも非常によく似た経路をとおります.この性質を利用して,両局の観測結果から誤差成分を相殺できます.

クロック誤差と軌道誤差の相殺

GPS測位には,衛星および受信機のクロック誤差,さらに衛星軌道の誤差が影響します.同じ衛星を観測する2つの受信局では,これらの誤差成分がほぼ等しくなります.したがって,2つの観測結果の差分を取ることで,クロック誤差や軌道誤差を効果的に除去できます.

具体的には,同じタイミングで同じ衛星を受信していれば,衛星側のクロックのずれは両局で同一です.差分を取れば,クロックの影響はキャンセルされます.また,衛星までの距離が地上に比べて圧倒的に遠いため,移動局と基準局の信号経路の差はわずかです.このため,衛星軌道の誤差も相殺されます.

電離層・対流圏の遅延も打ち消す

GNSS信号は,地球大気を通過する過程で,電離層および対流圏による遅延を受けます.基準局と移動局が十分に近い場合,この大気の状態もほぼ等しくなります.よって,これらの遅延もまた差分処理によって相殺されます.

このように,相対測位では,クロック誤差,軌道誤差,大気遅延といった多くの誤差要因を差分によって効果的に除去できます.最終的に得られるのは,基準局と移動局の間の精密な相対位置,すなわち基線ベクトルです.基準局の絶対座標が正確であれば,移動局の位置もまた高精度に求まります.

まとめ

相対測位は,2局間の信号の違いを利用して共通の誤差成分を相殺する手法です.クロック,軌道,大気の誤差を打ち消すことで,cm級の精度が実現されます.基準局との相対位置を精密に測ることで,単独測位では得られない高精度な測位が可能です.

相対測位の基礎概念

相対測位は,GNSS測位技術において高精度を達成するために不可欠な手法です.単独測位では,受信機が受信した信号だけから位置を推定しますが,相対測位では2つの受信局を用います.固定された基準局と,移動する移動局が同じ衛星を観測することにより,それぞれの信号の差分を利用して,誤差を打ち消します.

GNSS衛星から発信される信号には,さまざまな誤差成分が含まれます.たとえば衛星や受信機の時計のずれ,衛星軌道の不正確さ,大気中の電波遅延などです.相対測位では,これらの誤差が両局で共通であると仮定し,差分を取ることでこれらの誤差を除去します.

なぜ高精度になるのか

相対測位がcm級の精度を実現できるのは,以下のような誤差が相殺できるためです.

  1. クロック誤差:同一衛星からの信号なら,衛星の時計の誤差は同じ
  2. 軌道誤差:衛星との距離が圧倒的に長いため,信号の経路はほぼ一致
  3. 大気遅延:基準局と移動局が近接していれば,通過する大気の条件も同等

これらの条件が満たされると,2つの受信局間の相対的な位置,すなわち基線ベクトルが非常に高い精度で求まります.GNSS測位において重要なのは,絶対位置ではなく,基準点に対する相対的な位置である場合も多いため,相対測位は非常に有効です.

応用と注意点

相対測位は,土木測量,自動運転,農業機械の自律走行,ドローンの運航など,多くの分野で応用されています.重要なのは,基準局の位置情報が正確であることです.いくら移動局の相対位置が精密に求まっても,基準局の座標が誤っていれば,最終的な測位結果も誤ることになります.

また,相対測位が有効に機能するには,基準局と移動局の距離があまり離れていないことが望ましいです.おおよそ数km以内であれば,大気条件や誤差成分が十分に類似しており,差分処理の効果が高くなります.

まとめ

相対測位は,2つのGNSS受信局の観測差を用いて誤差を除去することで,非常に高い測位精度を実現する手法です.誤差の性質と空間関係をうまく利用することで,cm単位の位置決定が可能になります.応用範囲も広く,精密な位置情報を必要とする技術分野で活用されています.

〈著:ZEPマガジン〉

動画を見る,または記事を読む

著者紹介

  • 2013年 東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系 博士課程修了
  • 学生時代から現在まで,人力飛行機の電子装備の設計・製作・運用を行う

著書

  1. PSoCを使用したプロトン磁力計,トランジスタ技術2009年1月号,CQ出版社.
  2. 舞いあがれ人力飛行機(連載) Interface 2023年2月号~2024年5月号,CQ出版社.

参考文献

  1. [VOD/KIT] RTKポータブル・センチメートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. LiDAR×RTK×IMUフュージョン!自動運転&SLAMロボット開発 要点100,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]SLAMロボット付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. "[VOD/Pi KIT]MATLAB/Simulink×ラズパイで学ぶロボット制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/Pi KIT]ラズパイ×Pythonで動かして学ぶモータ制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [VOD/KIT]ラズベリー・パイで学ぶエッジAIプログラミング入門,ZEPエンジニアリング株式会社.