基準点が遠くてもFIX!後処理キネマティック解析


遠方にある基準局との間でも高いFIX率

後処理キネマティック解析とは

図1 後処理キネマティック解析では,2周波GNSSを用いることで,遠方にある基準局との間でも高いFIX率を維持できる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]樋田 啓
詳細:自動運転&SLAMロボット開発 要点100【セッション5】cm測位「キネマティックGNSS」の始め方

後処理キネマティック解析(Post-Processed Kinematic,PPK)は,GNSSデータをリアルタイムではなく,取得後に解析する手法です.リアルタイム・キネマティック(RTK)と異なり,解析時点で衛星軌道情報や地上局の観測データを詳細に反映できます.そのため,より高精度な測位結果を得ることができます.

PPKでは,移動局の生データと,事前に取得しておいた基準局の観測データを組み合わせて解析します.このとき,基準局が遠方にあっても,解析の自由度と柔軟性によって高精度が期待できます.

周波数の違いによるFIX率の変化

GNSS測位の精度は,用いる周波数帯に大きく依存します.1周波の受信機では,電離層による遅延の補正が難しく,長距離では誤差が蓄積されやすくなります.2周波受信機では,異なる周波数帯から電離層の影響を分離し,補正することが可能です.

今回の調査では,複数の電子基準点を使い,基準局との距離が測位結果に与える影響を比較しました.たとえば,基準局が2km先にある場合と,20km先にある場合のFIX率を比較した結果,1周波では距離が離れるほどFIX率が大幅に低下しました.一方,2周波の場合,20km離れていてもFIX率は98%以上を維持しました.

FIX率に影響を与える要因

FIX率を安定させるには,以下のような技術的条件が関係します.

  1. 使用周波数帯が2周波であること
  2. 電離層と対流圏による信号遅延の補正が可能であること
  3. 後処理により高精度な衛星軌道データを活用できること
  4. 観測点の環境にマルチパスが少ないこと

後処理では,リアルタイムに比べてこれらの条件を最適に設定できるため,距離の影響を最小限に抑えた解析が可能です.特に2周波GNSSの普及により,広範囲で高精度測位が実現しつつあります.

FIX率とは

FIX率とは,GNSS測位において「整数アンビギュイティの解が確定された観測の割合」を指します.アンビギュイティとは,衛星信号の波の位相を利用する測位で,整数個の波長数が不明である状態のことです.この不確かさを解決することで,cm級の高精度測位が可能になります.

FIX状態とは,アンビギュイティが整数値として確定し,正確な位置が計算可能な状態です.対義語としてFLOAT状態があり,これはアンビギュイティが浮動小数点値である場合を意味します.FIX率が高いということは,観測時間中に安定してFIX状態を維持できていることを意味します.

FIX率に影響する要因

FIX率は,使用するGNSS受信機の特性,周波数帯,基準局との距離,そして解析方法に大きく依存します.特に以下の条件がFIX率の向上に寄与します.

  1. 2周波GNSSの使用により電離層遅延を補正できること
  2. 基準局と移動局の視野に共通衛星が多いこと
  3. 基準局の観測精度が高いこと
  4. 解析において適切なフィルタや重み付けがされていること

後処理解析では,観測データに対して時間的に安定したモデルや補正データを適用できます.リアルタイム測位よりも信頼性の高いFIX率が得られる点は大きなメリットです.

FIX率と基準局の距離

一般に,基準局との距離が長くなると,共通の誤差要因(電離層・対流圏の影響など)が一致しにくくなり,FIX率は低下しやすくなります.しかし2周波GNSSを用いれば,距離による影響を効果的に補正できるため,20km以上離れていても90%以上のFIX率を維持することが可能です.

まとめ

FIX率はGNSS測位の精度と信頼性を評価するうえでの重要な指標です.解析手法や受信機の選定,設置環境などを適切に設計すれば,高いFIX率を確保できます.特に2周波GNSSと後処理解析を組み合わせれば,遠距離でも安定した測位結果が得られます.

〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 2013年 東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系 博士課程修了
  • 学生時代から現在まで,人力飛行機の電子装備の設計・製作・運用を行う

著書

  1. PSoCを使用したプロトン磁力計,トランジスタ技術2009年1月号,CQ出版社.
  2. 舞いあがれ人力飛行機(連載) Interface 2023年2月号~2024年5月号,CQ出版社.

参考文献

  1. [VOD/KIT] RTKポータブル・センチメートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. LiDAR×RTK×IMUフュージョン!自動運転&SLAMロボット開発 要点100,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]SLAMロボット付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. "[VOD/Pi KIT]MATLAB/Simulink×ラズパイで学ぶロボット制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/Pi KIT]ラズパイ×Pythonで動かして学ぶモータ制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  6. [VOD/KIT]ラズベリー・パイで学ぶエッジAIプログラミング入門,ZEPエンジニアリング株式会社.