GNSSモジュールの実装
高周波センスで基板設計
GNSSモジュールにおける基板設計の基本
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図1 GNSSの信号周波数は1.2~1.6GHz程度であり,この帯域では信号線がアンテナや受信回路へと伝送される際に,インピーダンスの不整合や不要放射などの問題が発生しやすくなる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]樋田 啓 詳細:自動運転&SLAMロボット開発 要点100【セッション5】cm測位「キネマティックGNSS」の始め方 |
GNSSモジュールはマイクロ波帯の信号を扱うため,高周波特有の設計配慮が必要です.一般にGNSSの信号周波数は1.2~1.6GHz程度であり,この帯域では信号線がアンテナや受信回路へと伝送される際に,インピーダンスの不整合や不要放射などの問題が発生しやすくなります.
高周波設計では,単なる配線ではなく「伝送線路」として設計しなければなりません.伝送線路では,インピーダンス整合やグラウンドの配置が信号品質を左右します.また,部品自体の周波数特性も重要です.たとえば,$C$や$L$の周波数依存性,TVSダイオードの動作帯域などを事前に確認します.
設計手順と考慮点
高周波設計では,次のような流れで設計を進めることが一般的です.
- 基板厚,層構成,プリプレグ構成を決定
- グラウンド付きコプレーナ線路としてパターン幅とギャップ幅を決定
- 周辺部品(抵抗,キャパシタ,インダクタ,TVSダイオードなど)の高周波特性を確認
- 部品配置,信号配線,viaの配置を検討
パターン幅やギャップ幅はオンライン計算機(I-laboratory,JLCPCBなど)や,電磁界シミュレータ(SonnetやCST Studio LE)を活用して設計します.データシートやmurataのSimSurfingなども有用なツールです.
パターン長が波長(約19cm)に対して十分短ければ,集中定数モデルとして扱うことも可能です.これは設計を簡素化する一方で,波長に近い長さの配線では分布定数としての扱いが必要です.
高周波特有のトラブルを避けるために
高周波配線では,線路の長さを極力短くすることで,信号反射や放射ノイズを低減できます.また,線路幅の2倍以上のグラウンド幅を確保することで,スロットモードや不要輻射を抑制できます.
高周波回路ではviaの配置も重要です.グラウンドの戻り電流経路を短く保つようにし,可能であれば複数viaでグラウンドを接続します.MCXコネクタなどの外部インターフェースでは,ピン配列に応じてギャップ幅の調整が必要です.
最終的にはシミュレーションと現物評価を繰り返すことで,設計品質を高めることができます.
インピーダンス整合とは何か
インピーダンス整合は,高周波回路設計における基本的かつ重要な概念です.送信側と受信側,あるいは伝送線路間でインピーダンスが一致していないと,信号の一部が反射され,波形のひずみや受信感度の劣化が生じます.GNSSモジュールでは,アンテナと受信回路,信号線路のすべてで整合性を取る必要があります.
たとえば,アンテナが$50\Omega$に設計されている場合,信号線も$50\Omega$の特性インピーダンスになるように設計します.これにより反射係数を最小限に抑え,最大の電力伝送効率が得られます.
インピーダンス整合の実現手段
整合をとるためには,主に以下の3つのアプローチがあります.
- パターン幅と基板厚によるコプレーナ線路設計
- マッチング回路(LCネットワーク)を挿入する
- オンライン計算機や電磁界シミュレーションで最適設計を行う
コプレーナ線路では,パターン幅とグラウンドとのギャップ幅を調整することで,目標の特性インピーダンスを得ます.これは基板の誘電率や層構成にも依存するため,一律の値ではなく,個別に最適化する必要があります.
また,周辺部品の配置やパッド形状にも整合性の影響が及びます.特にコネクタやフィルタ部品周辺では,急激なライン幅変化が整合を崩す要因になります.
高周波設計と整合のバランス
インピーダンス整合は理想的な目標ですが,実際の設計ではすべてを完全に整合させることは困難です.ある程度の不整合を許容しながら,実装性やコストとのバランスを取る必要があります.
もっとも重要なのは,設計段階で整合の必要性を理解し,無視できない影響がある箇所を重点的に設計・検証することです.GNSSモジュールにおいては,アンテナ入力部やフィルタ出力部が整合性の重要ポイントです.
測定機器を用いたSパラメータ評価や,TDR(時間領域反射測定)によって,整合状況を定量的に評価することも効果的です.
〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 2013年 東京大学大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系 博士課程修了
- 学生時代から現在まで,人力飛行機の電子装備の設計・製作・運用を行う
著書
- PSoCを使用したプロトン磁力計,トランジスタ技術2009年1月号,CQ出版社.
- 舞いあがれ人力飛行機(連載) Interface 2023年2月号~2024年5月号,CQ出版社.
参考文献
- [VOD/KIT] RTKポータブル・センチメートル測位キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
- LiDAR×RTK×IMUフュージョン!自動運転&SLAMロボット開発 要点100,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]SLAMロボット付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- "[VOD/Pi KIT]MATLAB/Simulink×ラズパイで学ぶロボット制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/Pi KIT]ラズパイ×Pythonで動かして学ぶモータ制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
- [VOD/KIT]ラズベリー・パイで学ぶエッジAIプログラミング入門,ZEPエンジニアリング株式会社.