大規模言語モデルLLM入門 無駄の多いニューラルネット


その多くは実は働いていない?重みノードやパラメータ


蒸留,枝刈り,量子化で高効率圧縮

図1 膨大なデータ量と多数のパラメータを用いることで高精度な自然言語処理を実現する大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)が普及してきたが,代償として計算量と消費リソースが急増している.[著・提供]井上 祐寛.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.詳細は[Webinar/Pi5 KIT/data]大規模言語モデルLLMによる生成AIプログラミング入門

大規模言語モデル(LLM)の軽量化技術入門

1.大規模言語モデルの進化と課題

人工知能(AI)の発展に伴い,大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)が急速に普及しています.

これらのモデルは,膨大なデータ量と多数のパラメータを用いることで高精度な自然言語処理を実現しますが,その代償として計算量と消費リソースが急増しています.

クラウド・サーバのような高性能な計算環境ではなく,PCやスマートフォンといったリソース制限のあるデバイス上での運用には限界があります.

プライバシ保護の観点から,エッジ・デバイス上でのローカル運用が求められるケースも増えています.これらの課題を解決するために,モデルの軽量化が重要な技術として注目されています.

2.モデル軽量化技術の概要

大規模モデルを効率化するために,主に以下の3つの手法が用いられます.

  1. 蒸留(Distillation)
  2. モデル全体の知識を圧縮し,軽量なサブモデルに転移する技術です.大きなモデル(教師モデル)から小さなモデル(生徒モデル)へ情報を伝えることで,計算コストを大幅に削減します.
  3. 枝刈り(Pruning)
  4. ニューラル・ネットワークの不要なノードや接続を取り除きます.これにより,ネットワークのサイズを減らしつつ,モデルの性能を保つことが可能です.
  5. 量子化(Quantization)
  6. パラメータの表現精度を32ビットから8ビットに落とし,メモリ消費を削減します.計算速度の向上も期待でき,特にモバイル環境での効果が顕著です.

3.モデル軽量化の実用例と応用

IoTデバイスやスマートフォン・アプリでは,処理能力とメモリの制限が厳しいため,大規模モデルをそのまま使うことは困難です.

蒸留された軽量モデルや枝刈りが施されたモデルを利用することで,これらのデバイスでも高度なAI機能が実現されています.量子化によってメモリの使用量が減少し,モデルの速度が向上するため,エッジ・デバイスでの応答性も高まります.

プライバシを重視するユーザにとっては,エッジ・デバイス上でのローカル処理が必須です.例えば,スマート・スピーカやモバイル端末上での音声認識モデルは,外部サーバへのデータ送信なしにリアルタイム処理を行う必要があり,軽量化技術は避けられません.

圧縮法の詳細と比較

蒸留(Distillation):小さなモデルへの知識の転送

蒸留は,教師モデルがもつ膨大な知識を生徒モデルに伝える技術です.これにより,生徒モデルはより少ないパラメータでありながら,教師モデルに近い性能を発揮します.

実際には,ソフト・ターゲット(教師モデルの出力分布)を生徒モデルに学習させることが多く,この手法は,教師モデルの計算資源を必要としない環境での応用が期待されています.

枝刈り(Pruning):冗長なノードの削減

枝刈りでは,ネットワーク内の重みパラメータの中で,貢献度が低いものを除去します.これにより,ネットワークの計算コストを抑え,軽量化を図ります.枝刈りには,ノード単位やチャネル単位での削減方法があり,用途に応じて使いわけが行われます.

量子化(Quantization):精度を落として効率化

量子化は,モデルの重みやアクティベーションを低ビット幅に変換する手法です.例えば,32ビット浮動小数点を8ビット整数に変換することで,メモリ消費を削減し,計算速度も向上します.量子化は特に,リアルタイム処理が求められるモバイル・アプリケーションや,電力制約のある環境での利用が増えています.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 株式会社クレスコ入社後,銀行向けシステムなど数多の開発にリード・エンジニアとして従事.後に自社ソリューションとなる統合認証システムの基礎を独力で開発するなど,アイデアと技術でクレスコを牽引する.技術研究所での機械学習研究を経て,人工知能を強みとする部門に異動.現在はテクニカルエバンジェリストとして企業が持つ業務課題へのAI適用に関するコンサルティング,機械学習に関する技術支援を行う一方,自ら研究テーマを持ち共同研究,実験システムの構築も担当.「SoftwareDesign」「やってみよう!機械学習」(技術評論社),「日経ソフトウェア」「AIプログラマになれる本」(日経BP)への記事寄稿,会津大学,はこだて未来大学,琉球大学,早稲田大学のほかWatson SummitやMicrosoftでの講演等,社外でも精力的に活動中

著書

  1. ラズパイ+USB SDRで作るFlightradar24 Businessアカウント・フィーダ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/KIT]ラズベリー・パイで学ぶエッジAIプログラミング入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/KIT]世界の航空機を同時追跡!Flightradar24 ラズパイ・キット,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/KIT]人工知能カメラM5StickVで作って学ぶ画像解析AI開発入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. いろんなことを試して学ぶ! Pythonプログラミング,2021年,日経BP.
  6. エッジAIプログラミング M5StickV 活用編,日経ソフトウェア2020年11月号,日経BP.
  7. エッジAIプログラミング M5StickV 準備編,日経ソフトウェア2020年7月号,日経BP.
  8. Kaggleに参戦しよう(連載),日経ソフトウェア2020年1月号,日経BP.
  9. Kaggleに参戦しよう(連載),日経ソフトウェア2019年9月号,日経BP.
  10. Kaggleに参戦しよう(連載),日経ソフトウェア2019年7月号,日経BP.
  11. AIプログラマになれる本,2019年,日経BP.
  12. やってみよう! 機械学習 第2章 機械学習の始め方,2019年,技術評論社.
  13. 人工知能で画像生成 応用編,日経ソフトウェア2019年1月号,日経BP.
  14. 人工知能で画像生成 基本編,日経ソフトウェア2018年11月号,日経BP.
  15. 自分で構築するか,APIで機能を使うか 機械学習の始め方,Software Design2018年4月号,技術評論社.

参考文献

  1. [VOD/Pi3A KIT]ラズパイ・キットで学ぶLinux I/Oボードの作り方・探し方・動かし方,ZEPエンジニアリング株式会社.
  2. [VOD/Pi KIT]ラズベリー・パイで学ぶLinux&Pythonプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  3. [VOD/PiZero KIT]Python×ラズパイで初めての量子コンピュータ,ZEPエンジニアリング株式会社.
  4. [VOD/Pi400 KIT]SLAMロボット&ラズパイ付き!ROSプログラミング超入門,ZEPエンジニアリング株式会社.
  5. [VOD/Pi KIT]ラズパイ×Pythonで動かして学ぶモータ制御入門,ZEPエンジニアリング株式会社.