5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室


次世代通信5Gの本命!28GHz帯

ミリ波の性質と広帯域通信の実験環境

図1 通信速度とデータ容量を向上させるミリ波は,電磁波の減衰の激しさや指向性の強さなど課題が多く,ビーム・フォーミングや周波数変換技術を駆使してこれらを克服する必要がある.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]加藤 隆志

ミリ波の性質と広帯域通信の実験環境

ミリ波通信とは

ミリ波とは,一般に30GHz~300GHzの周波数帯を指し,次世代高速通信5Gや高分解能レーダなどの先進技術において重要な役割を果たします.特に,5G通信においては,従来のマイクロ波よりも広い帯域幅を確保できるため,大容量データ伝送が可能になります.

5Gの周波数割り当てには,以下の3つのバンドが含まれています.

  1. 3.6GHz~4.1GHz(サブ6GHz帯)
  2. 4.5GHz~5.0GHz(サブ6GHz帯)
  3. 26.6GHz~29.5GHz(ミリ波帯)

特に28GHz帯のミリ波は,高速・大容量通信を実現する鍵となっています.しかし,ミリ波には指向性が鋭く,減衰が激しいという性質もあり,基地局の配置やビームフォーミング技術の活用が不可欠になります.

次世代高速移動通信への応用

ミリ波を活用した次世代通信技術では,以下のような応用が考えられます.

1.高速モバイル通信

ミリ波5Gは,最大10Gbps以上の通信速度を実現できるため,4K/8K映像のストリーミングやVR/ARコンテンツのリアルタイム配信が可能になります.また,低遅延(1ms以下)でのデータ通信が可能なため,自動運転や遠隔医療などの分野での活用が期待されています.

2.高分解能レーダ

ミリ波は波長が短く,従来のマイクロ波よりも高い分解能をもつため,車載レーダや産業用センシング,医療診断などに応用されています.特に,自動運転車に搭載されるミリ波レーダは,周囲の障害物を高精度で検出し,安全な走行を実現するための重要な技術です.

広帯域通信の実験環境

ミリ波通信の実験環境を構築する際には,以下のような要素が重要になります.

1.アンテナと送受信機の設計

ミリ波帯の送受信機を構築するには,指向性の高いアンテナ設計が必要です.また,ミリ波の比帯域($f_B = \frac{f_0}{f_{BW}}$)は10以上が望ましく,フィルタ設計においても適切な比帯域を確保する必要があります.

2.ビームフォーミング技術の活用

ミリ波通信では,電波の直進性が強いため,障害物による減衰の影響を受けやすくなります.この問題を解決するため,基地局や端末側でビームフォーミング技術を活用し,通信品質の向上を図ります.

3.周波数変換アダプタの活用

実験環境においては,低予算でミリ波通信を実現するために周波数変換アダプタを活用する方法も有効です.これにより,比較的低コストな機材を用いたミリ波通信の評価が可能になります.

キーワード

1.ミリ波帯(Millimeter Wave)

ミリ波帯とは,30GHz~300GHzの周波数帯域を指し,波長が1mm~10mm程度の電磁波です.一般的に,通信技術では24GHz以上の帯域がミリ波と分類されます.ミリ波は高周波であるため,通信帯域が広く,超高速データ通信が可能ですが,減衰が大きく障害物に弱いという特性をもっています.

2.ビームフォーミング(Beamforming)

ビームフォーミングは,アンテナアレイを用いて電波の送信方向を制御し,特定の方向に信号を集中させる技術です.ミリ波通信では,電波の指向性を高めることで通信の品質を向上させ,効率的なデータ伝送を実現します.

3.ローカル5G

ローカル5Gとは,企業や自治体が独自に5Gネットワークを構築できるしくみであり,工場やスマートシティ,医療機関などの閉域ネットワークで利用されます.ミリ波帯を活用することで,低遅延・高帯域の専用通信が可能になります.

4.高分解能レーダ(High-Resolution Radar)

ミリ波帯を利用するレーダは,周波数が高いため分解能が向上し,より精密な対象物の検出が可能です.自動運転車やドローン,さらには医療診断機器など,幅広い分野で活用されています.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1990年 無線通信機器メーカで設計開発.その後,計測器メーカでRF測定機器,半導体試験装置の設計開発
  • 2017年 フリーランスエンジニアとして独立,無線通信機器やSDR機器の受託開発
  • 2019年 株式会社ラジアンとして法人化,現在に至る

著書

  1. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.1 分散型マルチビーム無線機のハードウェア],ZEPエンジニアリング.
  2. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.2 1エレメント1モジュール独立分散型の理由],ZEPエンジニアリング.
  3. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.3 ソフトウェアによるマルチビーム制御の実験],ZEPエンジニアリング.
  4. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.4 非接触共振カプラによるアレイ・チャネル拡張],ZEPエンジニアリング.
  5. [Webinar/KIT/data]Arm M4/M7/DSP×500MHz!STM32H7ハイスペック計測通信Module開発,ZEPエンジニアリング.
  6. 高感度受信!ソフトウェア無線機の心臓部“Root-Raised Cosine Filter”の設計,ZEPエンジニアリング.
  7. 超長距離無線LoRaからローカル5Gまで!GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
  8. 自宅で設計・開発!USBミクスト・シグナル・アナライザ Analog Discovery Pro 3000 誕生,ZEPエンジニアリング.
  9. 高精度基準搭載&1GSPS広帯域!
  10. プロ用USBマルチ測定器 ADP5250誕生,ZEPエンジニアリング.
  11. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.1],ZEPエンジニアリング.
  12. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.2],ZEPエンジニアリング.
  13. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.3],ZEPエンジニアリング.
  14. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.4],ZEPエンジニアリング.
  15. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.5],ZEPエンジニアリング.
  16. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.6],ZEPエンジニアリング.
  17. ,ZEPエンジニアリング.
  18. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.8],ZEPエンジニアリング.
  19. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.9],ZEPエンジニアリング.
  20. GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
  21. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ MkⅡ【z-mmcon2】(mz-mmcon1後継機),ZEPエンジニアリング.
  22. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ【mz-mmcon1】(生産終了,後継機 z-mmcon2),ZEPエンジニアリング.
  23. [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ【mz-mmant1】,ZEPエンジニアリング.
  24. [KIT]実験用800M~6GHz 広帯域90°ハイブリッド【mz-qhybrid】,ZEPエンジニアリング.
  25. [KIT]実験用27.5G-29.5GHzバンド・パス・フィルタ【mz-mmbpf1】,ZEPエンジニアリング.
  26. [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ【z-pptgen-on1】,ZEPエンジニアリング.

参考文献

  1. [VOD]MATLAB/Simulink×FPGAで作るUSBスペクトラム・アナライザ,ZEPエンジニアリング.
  2. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング.
  3. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング.
  4. [VOD/KIT]初めてのソフトウェア無線&信号処理プログラミング 基礎編/応用編,ZEPエンジニアリング.
  5. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング.