5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室


ミリ波では「コプレーナ線路」が有効

ビアには信号を流さないほうがいい

図1 30GHz以上のミリ波では,従来のビアを用いた接続がインダクタンスとして作用し信号品質の低下を招くためコプレーナ線路を利用するのが定石.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]加藤 隆志

ミリ波時代に必須のコプレーナ線路

ミリ波通信においては,回路や基板の細部に至るまで高周波特性に配慮しなければなりません.その中で注目されるのが「コプレーナ線路(Coplanar Waveguide)」の活用です.

従来の多層プリント基板では,ICやコネクタを内層のグラウンドと接続する際にビア(Via)を用いるのが一般的でした.しかし,30GHzを超えるミリ波では,ビアがインダクタンスとして作用し,リターン電流の流れが妨げられます.この現象が伝送特性に悪影響を及ぼし,高速・高周波回路の安定性を損なう要因となるのです.

この問題を解決するために,表層のグラウンドで信号線を挟む「コプレーナ線路」が用いられます.コプレーナ線路は,グラウンドと信号線が同一平面に存在するため,ビアを介さずにリターン電流を処理できる点が大きな特徴です.結果として,特性インピーダンスの制御が容易になり,100GHzクラスの高周波信号にも対応可能になります.

コプレーナ線路の特性と設計ポイント

コプレーナ線路にはいくつかの設計上のポイントがあります.

1.グラウンドの配置

信号線の両側にリターン電流用のグラウンドを配置することで,伝送損失を抑えます.内層にベタ・グラウンドを設ける場合と設けない場合がありますが,一般に表層グラウンドを優先することでビアの影響を最小化できます.

2.インピーダンス制御

コプレーナ線路の特性インピーダンス$Z_0$は,信号線の幅,グラウンドとの間隔,誘電体の特性などによって決定されます.近似計算式を用いて最適な寸法を決定し,伝送特性の最適化を行うことが重要です.

3.電磁波の分布

ベタ・グラウンドを持たないコプレーナ線路では,電界が信号パターンとグラウンドの間に分布し,純粋なコプレーナ特性を維持できます.進行電流の伝送路両サイドに配置されたリターン電流用のグラウンドによって,安定した伝送路を形成できます.

ビアに信号を流さない設計の重要性

ミリ波設計では,ビアを極力避けることが推奨されます.なぜなら,ビアは高周波では単なる接続部ではなく,インダクタとして動作し,不要なインピーダンスの変動を生じさせるためです.

30GHz以上の高周波では,ビアの影響によってリターン電流が内層グラウンドに流れにくくなるため,伝送特性が著しく劣化するリスクがあります.コプレーナ線路を採用することで,表層グラウンドを活用し,ビアを介さずにリターン電流を制御できます.

ICやコネクタなどの高周波部品も表層で接続することで,不要な寄生成分を低減し,信号の品質を向上させることができます.コネクタの接続も容易になるため,ミリ波通信システムの実装において重要な要素になります.

ミリ波通信におけるコプレーナ線路の重要性

10GHzを超えるミリ波帯では,従来のマイクロストリップ線路やストリップ線路では損失が大きくなり,伝送特性の制御が困難になります.

コプレーナ線路は,このような課題を克服するための有力な選択肢です.

1.高周波対応の優位性

コプレーナ線路は,表層でリターン電流を制御できるため,100GHz以上の信号伝送にも対応可能です.ビアを排除することで,伝送損失を最小限に抑えることができます.

2.小型化と高密度実装への適応

ミリ波デバイスは小型化が求められますが,コプレーナ線路はコンパクトな配線が可能であり,実装密度を高めることができます.多層基板においても,表層グラウンドを利用することで高集積化が実現できます.

3.6G技術との親和性

6Gでは,テラヘルツ帯(THz)の活用が視野に入っています.コプレーナ線路の技術は,より高い周波数領域にも応用できる可能性があります.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1990年 無線通信機器メーカで設計開発.その後,計測器メーカでRF測定機器,半導体試験装置の設計開発
  • 2017年 フリーランスエンジニアとして独立,無線通信機器やSDR機器の受託開発
  • 2019年 株式会社ラジアンとして法人化,現在に至る

著書

  1. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.1 分散型マルチビーム無線機のハードウェア],ZEPエンジニアリング.
  2. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.2 1エレメント1モジュール独立分散型の理由],ZEPエンジニアリング.
  3. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.3 ソフトウェアによるマルチビーム制御の実験],ZEPエンジニアリング.
  4. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.4 非接触共振カプラによるアレイ・チャネル拡張],ZEPエンジニアリング.
  5. [Webinar/KIT/data]Arm M4/M7/DSP×500MHz!STM32H7ハイスペック計測通信Module開発,ZEPエンジニアリング.
  6. 高感度受信!ソフトウェア無線機の心臓部“Root-Raised Cosine Filter”の設計,ZEPエンジニアリング.
  7. 超長距離無線LoRaからローカル5Gまで!GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
  8. 自宅で設計・開発!USBミクスト・シグナル・アナライザ Analog Discovery Pro 3000 誕生,ZEPエンジニアリング.
  9. 高精度基準搭載&1GSPS広帯域!
  10. プロ用USBマルチ測定器 ADP5250誕生,ZEPエンジニアリング.
  11. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.1],ZEPエンジニアリング.
  12. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.2],ZEPエンジニアリング.
  13. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.3],ZEPエンジニアリング.
  14. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.4],ZEPエンジニアリング.
  15. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.5],ZEPエンジニアリング.
  16. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.6],ZEPエンジニアリング.
  17. ,ZEPエンジニアリング.
  18. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.8],ZEPエンジニアリング.
  19. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.9],ZEPエンジニアリング.
  20. GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
  21. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ MkⅡ【z-mmcon2】(mz-mmcon1後継機),ZEPエンジニアリング.
  22. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ【mz-mmcon1】(生産終了,後継機 z-mmcon2),ZEPエンジニアリング.
  23. [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ【mz-mmant1】,ZEPエンジニアリング.
  24. [KIT]実験用800M~6GHz 広帯域90°ハイブリッド【mz-qhybrid】,ZEPエンジニアリング.
  25. [KIT]実験用27.5G-29.5GHzバンド・パス・フィルタ【mz-mmbpf1】,ZEPエンジニアリング.
  26. [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ【z-pptgen-on1】,ZEPエンジニアリング.

参考文献

  1. [VOD]MATLAB/Simulink×FPGAで作るUSBスペクトラム・アナライザ,ZEPエンジニアリング.
  2. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング.
  3. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング.
  4. [VOD/KIT]初めてのソフトウェア無線&信号処理プログラミング 基礎編/応用編,ZEPエンジニアリング.
  5. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング.