5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室
従来スペアナとSDRで低予算!ミリ波実験の始め方
周波数変換アダプタの製作
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図1 従来の無線機やSDRの帯域は限られているため,周波数変換技術が極めて重要.ミリ波通信実験に利用するためには,適切な周波数変換技術とSDRを組み合わせて低予算ながら高度な実験環境を構築したい.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]加藤 隆志 |
低予算で始めるミリ波通信実験
従来スペアナとSDRの活用
5G時代の到来とともに,ミリ波帯の無線通信技術がますます重要になっています.しかし,従来の高価な計測機器を使わずにミリ波通信の実験を行うには,低予算で使える手法を検討する必要があります.本稿では従来のスペクトラム・アナライザ(スペアナ)とソフトウェア無線(SDR)を組み合わせた低コストの実験環境について紹介します.
従来の5M~6GHz帯の無線機と,27GHz~43GHzのミリ波帯をインターフェースする周波数変換アダプタを使用することで,手軽にミリ波通信の研究・実験を行うことができます.mz-mmcon1(生産中止品,後継機はz-mmcon2)を利用することで,ミリ波の周波数アップ・ダウンコンバージョンが可能です.
ミリ波通信実験の構成
1.単体での通信実験
mz-mmcon1にはSTM32F446マイコンが搭載されており,$2.4$MSPSのA-DコンバータとD-Aコンバータを内蔵しています.これを利用すれば,ベースバンド信号の生成・送信・受信を行うことが可能です.ただし,ベースバンドのデータ長はマイコンのメモリに依存するため,帯域$100$kHz以下の時分割信号しか処理できません.
パソコン・アプリケーションを活用することで,キャリア周波数やPLLの制御,フィルタバンクの切り替えなどを行うことができ,さらに周波数スイープ機能を利用すればミリ波帯の周波数特性を簡易的に測定することも可能です.
2.16MHz以下のリアルタイム通信
リアルタイムでの信号処理を行うためには,SDRトランシーバmz-SDRBlockHF2を組み合わせる方法が有効です.このSDRはFPGAと高速A-D/D-Aコンバータを搭載しており,$100$k~$16$MHzのアナログ信号をディジタル処理できます.
mz-mmcon1とmz-SDRBlockHF2を接続することで,リアルタイムでのミリ波変調・復調が可能になります.FPGAによる信号処理のため,パソコンを介さずに直接信号処理を行える点が大きなメリットです.
3.100MHz超の広帯域通信
さらに高帯域の通信実験を行うには,ザイリンクス社のZynq SoCを搭載したECLIPSE Z7(Digilent製)を使用する方法が考えられます.このデバイスは$100$MHz以上の帯域のI/Qベースバンド信号を生成・復調することが可能で,$10$万円以下で購入できるコスト・パフォーマンスの高いシステムです.
Zynq SoC内でハードウェアとソフトウェアを統合的に処理できるため,リアルタイム広帯域通信が可能になります.また,Ethernet経由でパソコンへデータを転送することで,リアルタイム動画の送受信実験なども行えます.
ミリ波通信における周波数変換の重要性
ミリ波通信実験では,周波数変換技術が非常に重要です.これは,一般的な無線機やSDRが対応している周波数帯域が限られているため,ミリ波帯を直接扱えないことが多いからです.
周波数アップ・ダウンコンバージョンとは?
周波数変換には,「アップコンバージョン」と「ダウンコンバージョン」の2種類があります.
- アップコンバージョン:低周波数の信号を高周波(ミリ波帯)に変換すること
- ダウンコンバージョン:ミリ波帯の信号を低周波(IF:中間周波数)に変換すること
アップコンバージョンを行うことで,既存のSDRや無線機でもミリ波帯の通信を可能にし,ダウンコンバージョンを活用することで,ミリ波帯の受信信号を解析しやすくなります.
SDRと組み合わせるメリット
SDR(Software Defined Radio)は,FPGAや高速A-D/D-Aコンバータを活用し,幅広い周波数帯域に対応できる無線通信システムです.SDRと周波数変換アダプタを組み合わせることで,以下のような利点があります.
- コスト削減:高価なミリ波対応測定器を使わずに,安価なSDRと変換アダプタで実験が可能
- 柔軟な実験環境:FPGAの設定を変更することで,さまざまな変調方式や信号処理を試せる
- リアルタイム処理:FPGAによる直接処理が可能なため,パソコンの制約を受けずにリアルタイム通信ができる
〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 1990年 無線通信機器メーカで設計開発.その後,計測器メーカでRF測定機器,半導体試験装置の設計開発
- 2017年 フリーランスエンジニアとして独立,無線通信機器やSDR機器の受託開発
- 2019年 株式会社ラジアンとして法人化,現在に至る
著書
- ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.1 分散型マルチビーム無線機のハードウェア],ZEPエンジニアリング.
- ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.2 1エレメント1モジュール独立分散型の理由],ZEPエンジニアリング.
- ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.3 ソフトウェアによるマルチビーム制御の実験],ZEPエンジニアリング.
- ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.4 非接触共振カプラによるアレイ・チャネル拡張],ZEPエンジニアリング.
- [Webinar/KIT/data]Arm M4/M7/DSP×500MHz!STM32H7ハイスペック計測通信Module開発,ZEPエンジニアリング.
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- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.6],ZEPエンジニアリング.
- ,ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.8],ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.9],ZEPエンジニアリング.
- GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
- [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ MkⅡ【z-mmcon2】(mz-mmcon1後継機),ZEPエンジニアリング.
- [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ【mz-mmcon1】(生産終了,後継機 z-mmcon2),ZEPエンジニアリング.
- [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ【mz-mmant1】,ZEPエンジニアリング.
- [KIT]実験用800M~6GHz 広帯域90°ハイブリッド【mz-qhybrid】,ZEPエンジニアリング.
- [KIT]実験用27.5G-29.5GHzバンド・パス・フィルタ【mz-mmbpf1】,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ【z-pptgen-on1】,ZEPエンジニアリング.
参考文献
- [VOD]MATLAB/Simulink×FPGAで作るUSBスペクトラム・アナライザ,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]初めてのソフトウェア無線&信号処理プログラミング 基礎編/応用編,ZEPエンジニアリング.
- [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング.