5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室
はじめの一歩「反射」をなくす
高周波回路は特性インピーダンスを無視すると動かない
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図1 高周波信号の伝送において,線路,送信回路,受信回路のインピーダンスを一致させることは極めて重要.ミリ波帯域では,設計の精度と材料選定が通信品質に大きな影響を与える.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]加藤 隆志 |
はじめの一歩「反射」をなくす
5Gの普及が進む中,通信技術はより高速かつ高精度な伝送が求められています.ミリ波帯域を使用した無線通信は,データの大容量伝送を実現するための鍵になります.ミリ波通信において重要な課題の1つが「反射」です.反射は,信号が伝送線路上で跳ね返る現象で,通信品質に深刻な影響を与える可能性があります.反射を防ぐためには,伝送線路の特性インピーダンスを適切に設計することが不可欠です.
反射による信号劣化
反射とは,信号が送信端から受信端に到達した後,受信端で反射して送信端に戻る現象です.これにより,信号波形が乱れ,減衰や消失が生じることがあります.特に,ミリ波帯域では,伝送線路の特性インピーダンスが一致しない場合,反射が顕著に発生しやすくなります.これは,信号の減衰や波形の乱れを引き起こし,通信の品質を著しく低下させます.
反射の発生を抑えるためには,送信回路,受信回路,そして伝送線路のインピーダンスを一致させる必要があります.これを「マッチング」と呼び,伝送線路のインピーダンスを設計段階で正確に計算し,実際の回路と一致させることが重要です.
伝送線路のインピーダンス・マッチング
反射をなくすためにもっとも重要なことは,送信回路の出力インピーダンス,受信回路の入力インピーダンス,および伝送線路の特性インピーダンスを一致させることです.理想的な伝送線路では,これらのインピーダンスがすべて50$\Omega$に設定され,信号がスムーズに次段に伝わります.送信回路と受信回路間のインピーダンスの不一致があると,信号は反射して伝送品質が損なわれます.
反射を抑えるための設計
5Gのような高速通信を実現するためには,ミリ波帯域における伝送線路設計が非常に重要です.ミリ波帯域では,伝送線路のインピーダンスが適切でない場合,信号が大きく減衰し,通信品質に影響を与えることになります.FR-4などの汎用材では信号が大きく減衰するため,低損失の材料を選択することが求められます.パナソニック社のMEGTRONやRogers社のRO4000シリーズなど,誘電損失の低い特殊材を使用することで,信号の品質を保つことができます.
伝送線路の設計では,波長が基板のサイズに近づく1GHz以上の周波数帯域では,基板や部品の物理形状にも注意が必要です.信号の波長が短くなると,微細な設計変更が信号の伝送に大きな影響を与えることになります.
ミリ波通信と反射の抑制技術
ミリ波帯域と反射の関係
ミリ波通信は,30G~300GHzの周波数帯域を使用する無線通信技術です.これにより,膨大なデータを高速で送信できるため,5Gなどの次世代通信網に不可欠な技術となっています.ミリ波の特性として,高周波の信号は物理的な障害物や反射に敏感であり,反射による影響を避けるための技術が重要です.
反射が問題となるのは,信号が伝送線路を通る際,インピーダンスが一致していない場合です.伝送線路,送信回路,受信回路のインピーダンスが一致していないと,信号は反射して波形が乱れ,通信が正常に行えなくなります.ミリ波帯域では,この影響が顕著になり,信号の減衰や消失を招きます.
インピーダンス・マッチングの重要性
インピーダンス・マッチングは,伝送線路,送信回路,受信回路のインピーダンスを一致させることによって,反射を抑える技術です.この技術により,信号がスムーズに伝送され,通信品質を保つことができます.送信回路と受信回路のインピーダンスが一致していれば,信号はスムーズに伝達され,反射は最小限に抑えられます.
ミリ波帯域では,波長が基板のサイズと同じくらい小さくなるため,伝送線路の設計が非常に重要です.インピーダンスが一致しない場合,反射が発生し,通信が不安定になります.そのため,伝送線路の設計段階でインピーダンスを正確に計算し,マッチングを行うことが不可欠です.
材料の選定と設計の最適化
5Gに対応したミリ波通信では,伝送線路や基板材料の選定が非常に重要です.低損失材料を使用することで,信号の減衰を抑えることができます.また,伝送線路の形状や部品の配置も,インピーダンス・マッチングに大きな影響を与えます.そのため,設計段階での慎重な検討と,必要に応じた高性能材料の選定が求められます.〈著:ZEPマガジン〉
著者紹介
- 1990年 無線通信機器メーカで設計開発.その後,計測器メーカでRF測定機器,半導体試験装置の設計開発
- 2017年 フリーランスエンジニアとして独立,無線通信機器やSDR機器の受託開発
- 2019年 株式会社ラジアンとして法人化,現在に至る
著書
- ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.1 分散型マルチビーム無線機のハードウェア],ZEPエンジニアリング.
- ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.2 1エレメント1モジュール独立分散型の理由],ZEPエンジニアリング.
- ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.3 ソフトウェアによるマルチビーム制御の実験],ZEPエンジニアリング.
- ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.4 非接触共振カプラによるアレイ・チャネル拡張],ZEPエンジニアリング.
- [Webinar/KIT/data]Arm M4/M7/DSP×500MHz!STM32H7ハイスペック計測通信Module開発,ZEPエンジニアリング.
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- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.1],ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.2],ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.3],ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.4],ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.5],ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.6],ZEPエンジニアリング.
- ,ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.8],ZEPエンジニアリング.
- 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.9],ZEPエンジニアリング.
- GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
- [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ MkⅡ【z-mmcon2】(mz-mmcon1後継機),ZEPエンジニアリング.
- [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ【mz-mmcon1】(生産終了,後継機 z-mmcon2),ZEPエンジニアリング.
- [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ【mz-mmant1】,ZEPエンジニアリング.
- [KIT]実験用800M~6GHz 広帯域90°ハイブリッド【mz-qhybrid】,ZEPエンジニアリング.
- [KIT]実験用27.5G-29.5GHzバンド・パス・フィルタ【mz-mmbpf1】,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ【z-pptgen-on1】,ZEPエンジニアリング.
参考文献
- [VOD]MATLAB/Simulink×FPGAで作るUSBスペクトラム・アナライザ,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング.
- [VOD/KIT]初めてのソフトウェア無線&信号処理プログラミング 基礎編/応用編,ZEPエンジニアリング.
- [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング.