5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室


特性インピーダンスの計算

パターンの幅と厚みで決まる

図1 ミリ波帯の信号を扱うときは,伝送線路の物理的な設計,インダクタンスとキャパシタンスの調整,誘電率や透磁率を考慮して,反射の影響を最小限に抑えることが必要.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]加藤 隆志

ミリ波帯では精度の高い特性インピーダンスの計算を

圧倒的な通信速度と低遅延を実現できる「ミリ波帯」では,波の反射や減衰が大きな課題です.ミリ波信号を扱う基板設計においては,反射を防ぐための「特性インピーダンス」の極めて正確な制御が重要です.

特性インピーダンスとは?

特性インピーダンスとは,伝送線路を通る信号が,線路の端に到達した際に反射せずにそのまま進むために必要なインピーダンスの値です.特性インピーダンスが伝送線路の負荷インピーダンスと一致していない場合,信号が反射して波形に悪影響を与えるため,反射を防ぐために特性インピーダンスを設計段階で調整する必要があります.

特性インピーダンスを決める要素

基板設計においてもっとも重要な要素の1つは,伝送線路(プリント・パターン)の幅です.プリント・パターンの幅を広げると,伝送線路のインダクタンスが低下し,キャパシタの容量が増大して,特性インピーダンスが低くなります.プリント・パターンとグラウンド層の間の距離も影響を与えます.距離を大きくすると,伝送線路のインダクタンスが増し,特性インピーダンスも高くなります.

特性インピーダンスは,伝送線路の等価回路であるインダクタ($L$)とキャパシタ($C$)の比率で決まります.インダクタは線路長で決まりますが,キャパシタは設計で調整可能です.具体的には,プリント・パターンの幅やグラウンド層までの距離を調整することで,キャパシタの容量が変わり,特性インピーダンスをコントロールできます.

特性インピーダンスの計算式と重要なパラメータ

特性インピーダンスを計算するための式は,伝送線路の物理的な構造に依存します.以下の式を使って特性インピーダンスを求めることができます:

インダクタンスとキャパシタンスの比率

特性インピーダンス($Z_0$)は,インダクタ($L$)とキャパシタ($C$)の比率で決まります.伝送線路の設計において,インダクタとキャパシタの値は,プリント・パターンの幅やグラウンド層との距離から決まります.

誘電率と透磁率による影響

伝送線路の特性インピーダンスは,伝送線路が通過する物質の誘電率($\varepsilon$)と透磁率($\mu$)によっても影響を受けます.これらの物理的パラメータにより,特性インピーダンスは変化し,通信品質や信号の伝達に大きな影響を与えます.

高周波の信号を伝送する場合,これらの計算において精密な設計が求められます.

特性インピーダンスの基礎知識

特性インピーダンスが適切に設計されていないと,反射や信号の減衰が発生し,通信品質が低下する恐れがあります.反射を抑制するためには,伝送線路の幅や高さを適切に設計し,インダクタンスとキャパシタンスのバランスを取る必要があります.

インダクタンス($L$)とキャパシタンス($C$)の調整

特性インピーダンスを決定する上で重要なパラメータは,インダクタンス($L$)とキャパシタンス($C$)です.伝送線路の幅を広げることで,キャパシタンスが増え,特性インピーダンスが低下します.逆に,伝送線路の幅を狭くすると,キャパシタンスが減少し,特性インピーダンスが増加します.これらの調整により,伝送線路が反射を最小限に抑えるように設計されます.

誘電率と透磁率の影響

誘電率($\varepsilon$)と透磁率($\mu$)も特性インピーダンスの計算において重要です.これらの物理的パラメータは,伝送線路内で信号がどのように伝播するかを決定します.誘電率が高い材料を使用することで,信号の速度が低下し,結果としてインピーダンスが変化します.透磁率は,磁場の影響を受けるため,信号の伝播にも影響を与えます.

高周波の影響

高周波の信号を取り扱う場合,「表皮効果」や「誘電損失」などのロスが重要な問題になります.これらのロスが増加すると,信号が減衰し,通信品質に悪影響を与えるため,これらの影響を最小限に抑えるための設計が必要です.

5G通信においては,ミリ波帯の高周波数が重要となるため,これらの設計要素に十分な配慮が求められます.

特性インピーダンス設計のポイント

特性インピーダンスの設計は,通信回線の品質を向上させるために極めて重要です.ミリ波帯の信号を扱う場合,反射の影響を最小限に抑えることが求められます.そのためには,伝送線路の物理的な設計,インダクタンスとキャパシタンスの調整,誘電率や透磁率を考慮した設計が必要です.〈著:ZEPマガジン〉

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著者紹介

  • 1990年 無線通信機器メーカで設計開発.その後,計測器メーカでRF測定機器,半導体試験装置の設計開発
  • 2017年 フリーランスエンジニアとして独立,無線通信機器やSDR機器の受託開発
  • 2019年 株式会社ラジアンとして法人化,現在に至る

著書

  1. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.1 分散型マルチビーム無線機のハードウェア],ZEPエンジニアリング.
  2. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.2 1エレメント1モジュール独立分散型の理由],ZEPエンジニアリング.
  3. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.3 ソフトウェアによるマルチビーム制御の実験],ZEPエンジニアリング.
  4. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.4 非接触共振カプラによるアレイ・チャネル拡張],ZEPエンジニアリング.
  5. [Webinar/KIT/data]Arm M4/M7/DSP×500MHz!STM32H7ハイスペック計測通信Module開発,ZEPエンジニアリング.
  6. 高感度受信!ソフトウェア無線機の心臓部“Root-Raised Cosine Filter”の設計,ZEPエンジニアリング.
  7. 超長距離無線LoRaからローカル5Gまで!GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
  8. 自宅で設計・開発!USBミクスト・シグナル・アナライザ Analog Discovery Pro 3000 誕生,ZEPエンジニアリング.
  9. 高精度基準搭載&1GSPS広帯域!
  10. プロ用USBマルチ測定器 ADP5250誕生,ZEPエンジニアリング.
  11. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.1],ZEPエンジニアリング.
  12. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.2],ZEPエンジニアリング.
  13. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.3],ZEPエンジニアリング.
  14. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.4],ZEPエンジニアリング.
  15. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.5],ZEPエンジニアリング.
  16. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.6],ZEPエンジニアリング.
  17. ,ZEPエンジニアリング.
  18. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.8],ZEPエンジニアリング.
  19. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.9],ZEPエンジニアリング.
  20. GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
  21. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ MkⅡ【z-mmcon2】(mz-mmcon1後継機),ZEPエンジニアリング.
  22. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ【mz-mmcon1】(生産終了,後継機 z-mmcon2),ZEPエンジニアリング.
  23. [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ【mz-mmant1】,ZEPエンジニアリング.
  24. [KIT]実験用800M~6GHz 広帯域90°ハイブリッド【mz-qhybrid】,ZEPエンジニアリング.
  25. [KIT]実験用27.5G-29.5GHzバンド・パス・フィルタ【mz-mmbpf1】,ZEPエンジニアリング.
  26. [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ【z-pptgen-on1】,ZEPエンジニアリング.

参考文献

  1. [VOD]MATLAB/Simulink×FPGAで作るUSBスペクトラム・アナライザ,ZEPエンジニアリング.
  2. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング.
  3. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング.
  4. [VOD/KIT]初めてのソフトウェア無線&信号処理プログラミング 基礎編/応用編,ZEPエンジニアリング.
  5. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング.