USBソフトウェア測定器 ADP5250 試用レポート3


間違いだらけのプローブ使用法


[受講無料]広帯域ソフトウェア無線&フェーズドアレイANT開発 要点100(2025年2月28日~3月7日)


減衰率と測定帯域の関係から周波数特性の調整まで

図1 プローブの減衰率を×10に設定するとプローブ内部の高抵抗ネットワークが働き,周波数帯域が広がるため,高速信号の波形を正確に捉えることができる.画像クリックで動画を見る.または記事を読む.[提供・著]加藤 隆志(ラジアン)

減衰率と測定帯域の関係

パッシブ・プローブは,信号の減衰と周波数特性を調整する機能を備えています.10:1減衰率の設定は,高周波信号や高速信号を測定するために重要です.

プローブの減衰率を``×1''に設定すると,オシロスコープの入力容量が信号に直接影響を与え,高速信号の波形が正しく観測されません.``×10''に設定することで,プローブ内部の高抵抗ネットワークが働き,周波数帯域が広がり,正確な波形を得ることができます.この設定は,USB伝送路などの高速差動信号を測定する際に有効です.

周波数特性の調整方法

パッシブ・プローブにはトリマ調整機構が内蔵されており,オシロスコープ入力の寄生容量をキャンセルするために使用します.調整を正しく行うことで,測定波形の高域特性を最適化できます.調整手順は以下のとおりです.

  1. 校正用端子への接続
    オシロスコープの校正信号端子にプローブを接続します.この信号は通常,矩形波(例:5.0V,1000kHz)です
  2. トリマの調整
    プローブのBNCコネクタ部にあるトリマを,セラミック製の非導電性ドライバを使って回します.金属製ドライバを使用すると短絡のリスクがあるため避けてください
  3. 波形の確認
    観測された波形が立ち上がりの鈍い状態(高域が弱い)やオーバーシュートのある状態(高域が強い)の場合は,トリマを微調整します.最適な波形が得られる位置で調整を固定します

グラウンド・ループとノイズ対策

パッシブ・プローブの使用において,ノイズの影響を最小限に抑えるための工夫も必要です.特に,グラウンド・ケーブルが形成するループ面積を小さくします.ループはアンテナとして機能して外来ノイズを拾います.

効果的な対策として,グラウンド・スプリングの利用が挙げられます.短いグラウンド接続を可能にし,ループ面積を大幅に減少させます.たとえば,TELEDYNE LECROY製のPK_1-5MM-118は,高周波や強いノイズ環境での測定において有用です.同軸ケーブルを使う前にこの方法を試すのが推奨されます.

減衰率10:1は必要

パッシブ・プローブにおける「10:1」の減衰率設定は,多くの測定場面で標準的に用いられています.この設定は,測定信号をオシロスコープに入力する際のインピーダンス適合と高周波成分の正確な測定を両立させるための設計です.

プローブを「×10」に設定することで,以下のメリットが得られます.

  1. 入力インピーダンスの向上:オシロスコープとの合成インピーダンスが高くなり,信号源への負荷が軽減されます
  2. 広帯域測定:高周波成分が劣化しにくく,信号のひずみを抑えられます

50MHz以下の信号を観測する場合,適切な周波数特性をもつ10:1プローブは,波形の立ち上がり時間やノイズ特性に優れたパフォーマンスを発揮します.

減衰率とトリマ調整の関係

減衰率10:1のプローブでは,内部回路に周波数特性を調整するトリマ・キャパシタが含まれています.このトリマの設定次第で,観測される波形の精度が大きく変化します.トリマ・キャパシタの容量が適切でない場合,波形に次のような問題が生じます.

  1. 高域が弱い場合:波形の立ち上がりが鈍くなる
  2. 高域が強い場合:オーバーシュートが発生する

これらの問題を解消するためには,プローブとオシロスコープの組み合わせに応じたトリマ調整が不可欠です.

減衰率1:1が推奨されない理由

減衰率1:1の設定は通常,信号帯域が狭く,測定信号にオシロスコープ入力の寄生容量の影響が大きく現れます.これにより,高速信号の測定では波形の忠実性が低下します.そのため,減衰率1:1は限定的な用途に留めるべきです.〈著:ZEPマガジン〉

動画を見る,または記事を読む

著者紹介

  • 1990年 無線通信機器メーカで設計開発.その後,計測器メーカでRF測定機器,半導体試験装置の設計開発
  • 2017年 フリーランスエンジニアとして独立,無線通信機器やSDR機器の受託開発
  • 2019年 株式会社ラジアンとして法人化,現在に至る

著書

  1. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.1 分散型マルチビーム無線機のハードウェア],ZEPエンジニアリング.
  2. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.2 1エレメント1モジュール独立分散型の理由],ZEPエンジニアリング.
  3. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.3 ソフトウェアによるマルチビーム制御の実験],ZEPエンジニアリング.
  4. ソフトウェア制御フェーズドアレイ・ミリ波モジュール“mmCon3”誕生[Vol.4 非接触共振カプラによるアレイ・チャネル拡張],ZEPエンジニアリング.
  5. [Webinar/KIT/data]Arm M4/M7/DSP×500MHz!STM32H7ハイスペック計測通信Module開発,ZEPエンジニアリング.
  6. 高感度受信!ソフトウェア無線機の心臓部“Root-Raised Cosine Filter”の設計,ZEPエンジニアリング.
  7. 超長距離無線LoRaからローカル5Gまで!GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
  8. 自宅で設計・開発!USBミクスト・シグナル・アナライザ Analog Discovery Pro 3000 誕生,ZEPエンジニアリング.
  9. 高精度基準搭載&1GSPS広帯域!
  10. プロ用USBマルチ測定器 ADP5250誕生,ZEPエンジニアリング.
  11. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.1],ZEPエンジニアリング.
  12. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.2],ZEPエンジニアリング.
  13. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.3],ZEPエンジニアリング.
  14. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.4],ZEPエンジニアリング.
  15. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.5],ZEPエンジニアリング.
  16. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.6],ZEPエンジニアリング.
  17. ,ZEPエンジニアリング.
  18. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.8],ZEPエンジニアリング.
  19. 5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室[Vol.9],ZEPエンジニアリング.
  20. GNU Radio×USRPで作るソフトウェア無線機,ZEPエンジニアリング.
  21. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ MkⅡ【z-mmcon2】(mz-mmcon1後継機),ZEPエンジニアリング.
  22. [KIT]ミリ波5G対応アップ・ダウン・コンバータ【mz-mmcon1】(生産終了,後継機 z-mmcon2),ZEPエンジニアリング.
  23. [KIT]実験用28GHzミリ波パッチ・アンテナ【mz-mmant1】,ZEPエンジニアリング.
  24. [KIT]実験用800M~6GHz 広帯域90°ハイブリッド【mz-qhybrid】,ZEPエンジニアリング.
  25. [KIT]実験用27.5G-29.5GHzバンド・パス・フィルタ【mz-mmbpf1】,ZEPエンジニアリング.
  26. [VOD/KIT]GPSクロック・ジッタ・クリーナ【z-pptgen-on1】,ZEPエンジニアリング.

参考文献

  1. [VOD]MATLAB/Simulink×FPGAで作るUSBスペクトラム・アナライザ,ZEPエンジニアリング.
  2. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!RF回路シミュレーション&設計・測定入門,ZEPエンジニアリング.
  3. [VOD/KIT]3GHzネットアナ付き!初めてのIoT向け基板アンテナ設計,ZEPエンジニアリング.
  4. [VOD/KIT]初めてのソフトウェア無線&信号処理プログラミング 基礎編/応用編,ZEPエンジニアリング.
  5. [VOD]Pythonで学ぶ マクスウェル方程式 【電場編】+【磁場編】,ZEPエンジニアリング.